(ブルームバーグ):米軍がベネズエラのマドゥロ大統領を拘束し首都カラカスから米国に移送してから数時間後、キューバのディアスカネル大統領は、ベネズエラ、キューバ両国の革命を守るために「血を流し、命さえ差し出す覚悟を持つべきだ」と国民に呼びかけた。
だが、深刻化する危機に対処するには、それでも十分ではない可能性がある。
マドゥロ氏は現在、ニューヨークで裁判を待つ身となり、共産主義体制のキューバは主要な同盟国を失った。同国経済はさらなる深淵(しんえん)に臨んでいる。
ベネズエラは過去数十年にわたり、キューバからの医師や教師、治安要員の派遣と引き換えに、燃料や資金の大半を供給してきた。こうしたプログラムが失われれば、同国の壊滅的なエネルギー不足は一段と悪化し、食料や医薬品、生活必需品の欠乏もさらに深刻になる。
米フロリダ州マイアミに拠点を置くハバナ・コンサルティング・グループのエミリオ・モラレス社長はキューバについて、「支払いを肩代わりしてきた後見人・支援者を失い、彼らは完全に破綻している」とし、「どうやって生き延びるというのか」と語った。
先月開かれたキューバ人民権力全国会議(国会)の会合では、当局者が厳しい経済状況を説明し、現在の危機の原因は長年にわたる米国の制裁にあると非難した。ただ、ベネズエラ産原油の供給減少も要因となっている。
テキサス大学エネルギー研究所の研究員で、キューバ向け燃料輸送を追跡しているホルヘ・ピニョン氏によると、キューバが経済を維持するには1日当たり約10万バレルの石油が必要だが、国内生産はその5分の2にとどまる。
10年前には、ベネズエラがキューバの需要を完全に満たす量を供給していた。しかし、ピニョン氏の直近の集計では、トランプ米政権が先月、原油タンカーの拿捕(だほ)を開始する前の時点で、ベネズエラからの供給は同3万5000バレルにまで落ち込んでいた。
燃料不足はキューバ経済を直撃する大規模な停電を引き起こしている。農業生産や観光も数十年ぶりの低水準に落ち込んでいる。人口の約5分の1に相当する200万人超が、安定した飲料水を確保できていない。
キューバの人口は過去10年で15%減少した。政府は2050年までに、さらに20%の人口減を見込んでいる。ごみが回収されない状況や、空の陳列棚に加え、かつては世界的な模範とされた保健医療体制の国で蚊媒介疾患の感染率が急上昇するなど、社会のひずみは至る所に顕在化している。
トランプ大統領は3日、米紙ニューヨーク・ポストとのインタビューで、ディアスカネル政権はあまりにも弱体化しており、「キューバは自壊するだろう」と述べ、変化をもたらすのに軍事力は必要ないとの見方を示した。
トランプ氏はさらに、ベネズエラでの急襲作戦で「多くのキューバ人が命を落とした」とも同紙に語った。ディアスカネル氏は4日夜の声明で、キューバ軍兵士および内務省職員32人が死亡したことを確認した。
米国はそれでもキューバへの圧力を強めている。それを主導するのはキューバ系移民の両親を持つフロリダ州マイアミ生まれのルビオ国務長官だ。3日にトランプ氏と並んで発言したルビオ氏は、マドゥロ氏の排除を受け、キューバ指導部は「心配」すべきだ」と述べた。
またルビオ氏は4日、NBCニュースの番組「ミート・ザ・プレス」で「キューバ政府は非常に大きな問題だ」と指摘。米国が次にキューバを標的にするかどうかについては明言を避けたものの、「われわれがキューバ政権の大ファンではないことは、誰の目にも明らかだ。ちなみに、マドゥロ氏を支えてきたのは彼らだ」とコメントした。
トランプ政権の戦略の要となるのは、ベネズエラが担ってきたキューバ向け資金供給の空白を、他国に埋めさせないことだ。メキシコやロシア、イランはこれまでにキューバへ燃料を供給してきた時期があるが、経済の機能維持には十分ではなかった。

テキサス大のピニョン氏によると、メキシコからの出荷量は昨年、1日当たり約7000バレルにまで減少した。24年には最大で同2万2000バレルに達していた。同国のシェインバウム大統領は、安全保障や通商問題を巡るトランプ氏との対応に加え、キューバ向けエネルギー供給について透明性を高めるよう求める国内圧力にも直面している。
米首都ワシントンを拠点とする超党派団体キューバ・スタディー・グループのエグゼクティブディレクター、リカルド・エレロ氏はメキシコ、ブラジル、コロンビアを例に挙げ、キューバのディアスカネル政権には「既に脆弱(ぜいじゃく)な米国との関係を危険にさらすような同盟国は西半球にない」と話す。その上で、「ロシアや中国、あるいは他のどこかの国が救済に乗り出すとも考えにくい」と語った。
キューバが燃料供給国を見つけられたとしても、ベネズエラが提供してきたような有利な条件を得る可能性は低い。新たな支援者は、信用リスクとしてのキューバと、政治的な敵対相手としての米国を同時に引き受ける必要がある。「キューバには選択肢がないように見受けられる」とエレロ氏は述べ、「キューバ経済は粉砕されるだろう」との見方を示した。
キューバ政権が過去にも並外れた粘り強さを示してきたのは確かだ。このためベネズエラについて、キューバの運命を左右する唯一の同盟国と見なすのは慎重であるべきだと指摘する分析もある。
24年の大半をキューバで過ごし、政権の持続性をテーマに博士論文を執筆中のキューバ系米国人歴史家、アンドレス・ペルティエラ氏は「理論上は世界の他のパートナーと組むことで、ある程度はベネズエラの穴を埋める別の解決策をキューバが追求する余地はある」と述べた。

一方でピニョン氏は、燃料と引き換えにキューバと物々交換に応じる用意のある国は他に思い当たらないと指摘。そのため同氏は、ルビオ氏の強硬姿勢にもかかわらず、米国が短期的にはベネズエラによる原油供給の継続を認めるのではないかとみている。「誰も破綻国家となったキューバを望んではいない」と語った。
マドゥロ氏排除後のベネズエラの政権がキューバをどう扱うかも不透明だ。ロドリゲス暫定大統領は、マドゥロ氏の強固な同盟者ではあるものの、前任者ほどキューバの政権に同情的とは受け止められていない。
関係が完全に断たれた場合、キューバ指導部が被る打撃の大きさを定量化するのは難しいと、ハバナ・コンサルティング・グループのモラレス氏は指摘する。「燃料不足だけの問題ではない。資金の欠如、影響力の喪失、第三者に対する統制力の低下だ」とし、「これほどの打撃を受けたことは一度もない。壊滅的だ」と話した。
キューバは長年、逆境をものともせずに生き延びてきた。1959年の革命以降、米国による指導部の暗殺や追放の試みを幾度もかわし、1980年代のソ連崩壊後には10年に及ぶ苦境にも耐えてきた。それでも、今後の進路はますます狭まりつつある。
キューバ・スタディー・グループのエレロ氏は、キューバが「過去65年で最も暗い時期にある」と述べ、「どう抜け出すのか見通すことはできない」と論じた。
原題:Maduro Ouster Leaves Cuban Regime Without a Benefactor (1)(抜粋)
(トランプ大統領の発言とディアスカネル大統領の声明の内容を追加して更新します)
もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.