(ブルームバーグ):米国は長年にわたり強権主義的なベネズエラ政権に圧力をかけてきたが、そうした取り組みの中核を成してきたのが石油だ。
米国の歴代政権はベネズエラの最重要輸出品に狙いを定め、2019年の石油制裁を皮切りに、石油タンカー輸送の部分封鎖に踏み切るなど、マドゥロ大統領に対する圧力を強めてきた。
そして、トランプ政権は26年1月3日、ベネズエラの首都カラカスを空爆し、マドゥロ氏を夫人と共に拘束した。ベネズエラはかつてのような石油大国ではないが、豊富な原油埋蔵量は崩壊した国内経済を立て直す上で極めて重要だ。
トランプ米大統領はマドゥロ夫妻拘束後、「安全で適切かつ慎重な政権移行が実現」するまで、米国がベネズエラを「運営」すると発表した。ただ、米国がどのように統治を引き受けるのかは明らかではない。トランプ氏はベネズエラの石油産業を「再建」するとも述べた。
ベネズエラの石油産業について知っておくべき重要な点は、以下の通りだ。
ベネズエラの石油は世界市場でどのような存在なのか
世界最大級の石油埋蔵量を抱えるベネズエラだが、15年以降、世界市場におけるプレーヤーとしての役割は大きく低下している。現在の生産量は日量約100万バレルで、1990年代のピーク時の約3分の1にとどまり、世界全体の生産量の1%未満だ。ベネズエラ産原油の大半は中国向けだ。
事情に詳しい関係者によると、米国の空爆は、ベネズエラ最大の石油ターミナルがあるホセとアムアイ製油所、そして国内生産の大半を占める重質油の埋蔵地「オリノコベルト」には影響しなかった。
ここ数週間、米国が制裁対象の石油タンカーに対して実施した封鎖は、世界の原油価格に大きな影響を与えなかった。ただ、拿捕(だほ)のリスクを避けるため、ベネズエラに向かっていたタンカー数隻が進路を変えた。この封鎖はまた、ベネズエラが泥状の原油をくみ上げ、輸送するために必要とするブレンド基材、ナフサの到着も妨げた。

米国によるベネズエラ攻撃とマドゥロ氏拘束の数日前には、原油積み出しやナフサ輸入の大半が停滞していた。行き場を失った原油で貯蔵タンクが満杯になる中、ベネズエラは油田での生産停止に着手し始めていた。
ベネズエラの石油輸出はここ数年、追跡が大幅に難しくなっている。積み出しに関与する多くのタンカーが、イランで使われてきたのと同じ手法を採用し、ベネズエラ海域では虚偽の位置情報を発信したり、信号を出さなかったりし、船舶間の積み替えを分からないように行っている。ベネズエラの輸出量は日量50万-80万バレルとみられていた。
世界の原油価格は軟調だ。26年初めにかけて続く見通しの大幅な供給余剰が背景だ。そのため、市場にはベネズエラの石油生産が混乱しても、その影響を吸収できる余地がある。
ベネズエラの石油産業が回復すれば、最終的に市場への原油供給が増えることになるが、そこに至るまでには何年もの時間と数十億ドル規模の投資が必要だ。追加供給は、アスファルトなどを製造するためベネズエラ産の重質油を好む一部の米石油精製会社にとって追い風となる。
米国がベネズエラの石油資産を押収する可能性はあるのか
マドゥロ氏拘束後の記者会見で、トランプ氏は米国によるベネズエラ統治には米石油会社を送り込むことが含まれると明らかにし、「世界最大級の米国の石油会社が現地に入り、何十億ドルも投じて、ひどく壊れたインフラを修復し、そして国のために収益を上げ始める」と語った。
トランプ氏はまた、マドゥロ氏排除を決断した背景として、ベネズエラの指導者らが同国のエネルギー部門に対する米国の投資を「盗んだ」という自身の考えを強調した。
「われわれは米国の人材や原動力、技術でベネズエラの石油産業を築いたが、社会主義政権は過去にそれをわれわれから奪った。彼らは力によってそれを盗んだ。これは、わが国の歴史において最大級の米国資産の窃盗に当たる」とトランプ氏は主張した。
米当局は先に、カリブ海で展開してきた軍事作戦は麻薬密輸を阻止することが目的だと説明していた。米政権によれば、制裁対象のタンカーを拿捕し、石油輸送事業者に罰則を科すことは、麻薬密輸組織の資金源となる収入の流れを断つためだ。
米国の石油会社はベネズエラでどのような役割を果たしてきたのか
米国の石油会社は、約100年前からベネズエラの石油産業の主要な担い手となり、同国を米国向けの主要供給国に育て上げた。ベネズエラは1960年、石油輸出国機構(OPEC)の創設メンバーとなった。
ベネズエラの石油産業は70年代半ばに国有化され、90年代に外資に再び開放された。マドゥロ氏の前任者で2013年に死去したチャベス前大統領は07年に主要な米国の石油事業を接収した。エクソンモービルとコノコフィリップスは撤退し、その後、資産没収を巡る国際仲裁で大規模な賠償判断を勝ち取った。
シェブロンは、ベネズエラに残った唯一の米石油会社だ。ヒューストンに本社を置く同社は現在、米財務省から制限付きの許可を受け、国営ベネズエラ石油(PDVSA)との4つの合弁事業を運営している。シェブロンはベネズエラ産油量の約4分の1を占めている。
米軍の作戦が展開される中、シェブロンは「従業員の安全と福利、ならびに資産の完全性に引き続き注力している」とし、「関連する全ての法律と規制を完全に順守して事業を継続している」とコメントした。
中国はベネズエラの石油産業でどのような役割を担っているのか
中国国有の中国石油天然ガス集団(CNPC)は、PDVSAとの長年の合弁事業を通じてベネズエラ産原油を生産している。ベネズエラは原油の大半を、通常は仲介業者を通じて中国の買い手に出荷している。
この供給の多くは、原油を担保にして中国から供与された融資数十億ドルの返済に充てられており、原油は大幅な値引きで販売されている。米国は最近、ベネズエラの石油産業と取引する中国企業や船舶への制裁に動き、国家財政への圧力を強めた。
シェブロンは長年、ベネズエラでの自社の存在が、米国と対立する中国などの影響力に対する防波堤だと主張してきた。ただ、トランプ政権1期目にベネズエラでの米石油事業が最低限にまで縮小された時期でさえ、中国が現地で存在感を大きく拡大したわけではない。
米国によるマドゥロ氏排除に対し、中国政府は強く反発し、「このような米国の覇権的行為は、国際法とベネズエラの主権を深く侵害し、中南米およびカリブ地域の平和と安全を脅かす。中国はこれに断固反対する」と表明した。
ベネズエラは、制裁を回避するため産地を偽装するいわゆるゴースト船を使って中国に原油を輸出している。中国は、主に山東省に集積する「ティーポット」と呼ばれる独立系製油所を通じてベネズエラ産原油を購入している。
他にどの外国の石油会社がベネズエラで事業をしているのか
ベネズエラで操業する外国の石油会社には、スペインのレプソルやイタリアのENI、フランスのモーレル・エ・プロム(M&P)などがある。仏トタルエナジーズなどは自主的に撤退した。英シェルはここ数年、ガス資源活用を目的にベネズエラへの復帰を模索している。
ロシアの国営石油会社ロスネフチは、制裁対象ではない別の企業に資産を移管するという法的な回避策を取った。インドのリライアンス・インダストリーズは、米国の石油制裁後にベネズエラ産原油の重要な買い手となっていたが、米制裁のリスクを理由に最近数年は距離を置いている。
ベネズエラ石油産業の現状は
ベネズエラの原油生産量は、1990年代後半に日量320万バレル超を記録したピーク時から70%余り落ち込んだ。現在、世界の産油国順位では21位にとどまっている。
今後数年で、新興産油国として台頭しつつある隣国ガイアナや、シェールオイルの主要プレーヤーであるアルゼンチンに、生産量で追い越される見通しだ。石油セクターの衰退にもかかわらず、ベネズエラの海外収入は少なくとも95%が石油販売に由来している。

なぜベネズエラの石油産業はここまで衰退したのか
ベネズエラ石油産業の崩壊は2000年代初頭にさかのぼる。チャベス政権の社会主義革命は、石油業界をより厳格な国家管理下に置き、PDVSAから経験豊富な経営陣を追い出し、外資を遠ざけた。
チャベス政権はPDVSAの能力主義制を解体し、政治的忠誠を誓う者だけを起用した。その結果、パイプラインや石油施設で事故が相次ぎ、12年には世界最大級の製油所で爆発が起き、多数の死傷者を出した。
これにより生産は急減し、OPEC加盟国であるベネズエラは国内需要を満たすために燃料を輸入せざるを得なくなった。2000年代半ばには原油価格が1バレル=100ドルを超える水準まで上昇していたが、マネーロンダリング(資金洗浄)や幹部に対する国際的な起訴で石油業界はさらに打撃を受けた。
かつて隆盛を誇ったPDVSAの国外事業は退潮著しく、最終的に米子会社シットゴーの支配権を失った。3つの製油所を運営するシットゴーは現在、PDVSAの債権者への支払いを目的にデラウェア州の裁判所を通じ競売手続きが進められている。
米国からの圧力も一因となった。100年以上にわたる米国の関与により、ベネズエラはかつて、米国にとって南米有数の同盟国だった。
ベネズエラで民主主義の後退と弾圧が強まる中で、米国は17年にPDVSAへの金融制裁を、19年に石油制裁を科した。これらの制裁はPDVSAとの石油取引やファイナンスの大半を禁じている。その結果、米国の技術に高度に依存しているにもかかわらず、輸入が禁止されたPDVSAの施設はさらなる劣化に見舞われている。
原題:How Venezuelan Oil Factored Into US Seizure of Maduro: QuickTake(抜粋)
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