イーロン・マスク氏率いる電気自動車(EV)大手テスラとのビジネスが始まるまで、韓国のホ・ジェホン氏と家族は無名だった。同氏の電池材料メーカー、L&Fが巨額契約を受注したことで、一家は突如、超富裕層の仲間入りを果たした。しかしその契約は期待を大きく下回った。すでに目減りしていた同氏の資産はさらに打撃を受け、その全容が今ようやく明らかになってきた。

L&FはEVバッテリーに使用される高ニッケル正極材を製造する。同社は2023年、29億ドル(現在の為替レートで約4500億円)と評価された契約をテスラから受注し、株価はピークに達したが、そこから70%余り下げた。L&Fは25年12月29日、この契約の価値がわずか7386ドルに修正されたことを明らかにした。99%の下方修正だ。

ホ会長兼最高経営責任者(CEO)とその家族にとって、この下方修正に至るには、世界的なEV需要減退に伴う個人資産の目減りという長い道のりがあった。大型受注が発表された当時、一家の資産は急増し8億ドルを超えた。ブルームバーグ・ビリオネア指数によれば、それが今ではおよそ1億3400万ドルに減少した。

テスラからの受注は画期的なものとして称賛され、L&FはEV巨人に直接納入するメーカーとしての立場を確立した。同社の部材をバッテリーに使う「サイバートラック」は、遅延を繰り返し、消費者は離れていった。同時にL&Fへの発注量もみるみる減った。

契約規模の下方修正が発表される前から、L&Fの株価はすでに下落を始めていた。世界的なEV需要の冷え込みと、主力顧客であるLGエナジー・ソリューションへの高い依存が、投資家を警戒させた。テスラとの契約縮小は、比較的新しいモデルに関連した不確実性を浮き彫りにするが、同社との関係を完全に断ち切ったことを意味するとは限らないと、警告するアナリストもいる。

 

イ・チャンミン氏らKB証券のアナリストは、今回問題となっているL&Fの部材は人気のないサイバートラック専用だったため、テスラへの供給は24年から途絶えていたと指摘した。

すでに市場は業績予想からこの契約を除外していたため、今回の開示が今後の業績に与える影響は「極めて限定的になりそうだ」とイ氏はリポートに記した。

アナリストらによれば、L&Fの中核事業は維持されている。「モデルY」など量産モデルに対応し、LGエナジー経由でテスラに供給する高ニッケル正極材は、売上高全体の8割を占め、L&F最大の収入源となっている。この間接サプライチェーンは「先日の開示にもかかわらず、順調に進行中に見える」とイ氏は述べた。

L&Fにコメントを求めたが、現時点で返答は得られていない。

ユアンタ証券コリアのアナリスト、アンナ・リー氏は「短期的な投資家心理の悪化は避けられないが、26年にこのセクターが再び脚光を浴びる可能性は高まっており、特に人工知能(AI)データセンター用のエネルギー貯蔵システムは注目される」とリポートで指摘した。

原題:Tesla’s Vanishing Order Hastens Fall of an $800 Million Fortune(抜粋)

--取材協力:Sangmi Cha、Phoebe Sedgman.

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