(ブルームバーグ):ベネズエラのマドゥロ大統領を拘束した大胆な軍事作戦は、米国が世界最強の軍隊を保持し続ける能力を鮮烈に示した。
これは、米国の孤立主義、いわゆる「モンロー主義」への「トランプ補論」として、「遠く離れた外国の干渉を拒み、西半球における米国のリーダーシップを行使する」との政策を断行したと証明すると同時に、武力を斬新かつ意外性のある形で用いるというトランプ氏の好みを改めて想起させる。
トランプ氏が悪質な指導者を打ち倒し、世界的なパワーを巡る闘争において意味のある一撃を放ったのは疑いようもない。しかし、カラカスでの大統領邸宅急襲は、ベネズエラの将来や西半球における影響力を巡る衝突、そして秩序が乱れた世界における行動規範について、より難しい問いも投げかける。
米国人の戦死者が報告されていないという成功は、困難な標的を見つけ出す米情報機関の能力と、それを攻撃する米軍の力を如実に示している。これはまた、西半球を巡るトランプ氏のキャンペーンにおける戦果でもある。
昨年1月に大統領に返り咲いたトランプ氏は、パナマへの外交的圧力、同氏と考えが近いアルゼンチンとエルサルバドルの大統領への支持、マドゥロ氏に対する強制のエスカレーション、麻薬密売が疑われる人物への致死的攻撃など、さまざまな手段で米国の中南米における覇権を再び主張してきた。
マドゥロ氏は米国の刑務所で長い時間を過ごす可能性が高い。同氏の運命は、北京やモスクワとの関係強化を求める反米的な中南米指導者の脅威を、トランプ政権がいかに深刻に受け止めているかを示す厳しい警告だ。これは、トランプ氏がベネズエラ攻撃後に強調した事実だ。
今回の軍事作戦は、トランプ氏が好む戦争のやり方も示した。トランプ氏は昨年6月、イランの核施設への攻撃準備を隠すため、陽動と偽情報を用いた。ここ数日間、トランプ政権は同じ手を再び使った。
トランプ氏がベネズエラの石油封鎖について手を打つ、あるいは交渉の準備をしているといった報道は、マドゥロ氏に偽りの安心感を与える狙いがあったのだろう。
トランプ流の戦争は、米国の優位性を際立たせる秘密性と奇襲性を最大化し、大統領が自らの条件で紛争を始め、終わらせることを可能にする精密な武力行使への道を切り開く。
さらに、トランプ政権によるイラン攻撃とのもう一つの類似点がある。専制的な大国間の連帯の限界を露呈させたことだ。
マドゥロ氏を長年支えてきたロシアと中国は、ベネズエラの主権侵害だと激しく非難している。しかし、西半球における断固たる米国の戦力投射を前に、中国とロシアができるのは言葉で批判することだけだ。イスラエルと米国の手による軍事的屈辱からイランを救えなかった、あるいは救おうとしなかったのと同じだ。
混乱長期化も
トランプ政権の戦術的な成功には称賛すべき点が多く、現実的な戦略的利益をもたらす公算が大きい。一方で、不確実性も残る。
第一はベネズエラの将来だ。トランプ氏は指導者の交代を成し得たが、マドゥロ政権の強硬派が多く残っているため、体制転換には至っていない。
トランプ氏は、民主的移行を監督するため米国がベネズエラを「運営」すると述べ、マドゥロ体制の残存勢力が協力しなければ追加攻撃も辞さないと警告している。
だが、仮にこの締め付けが奏功しても、ベネズエラのチャベス前大統領が敷いた約30年に及ぶ強権的な社会主義体制がもたらした経済・政治・社会的損害を修復する作業を伴う以上、政治の移行は長期化し混乱する可能性がある。
第二に、西半球を巡る大国間の争いは終わっていない。中国は数十年にわたり、中南米諸国でインフラや貿易などへの投資を進め、関係を築いてきた。
その影響力を象徴しているのが、ペルーの巨大港湾やボリビアの大規模な宇宙関連施設だ。警察・治安面での関係も強化されている。
偶然だが、中国は中南米への関与に関する政策文書を昨年12月に公表したばかりだ。その要点は、世界のパワーバランスが中国の影響力拡大に有利な方向へ変化しているというものだ。
トランプ氏は、軍事力に関しては米州には米国という唯一の大国が存在するだけだというメッセージを発した。中南米諸国は、少なくとも当面、軍事基地と疑われ得る施設へのアクセスを中国政府に与えることに一段と慎重になるだろう。しかし中国は長期的優位を狙い、中南米での経済・技術・政治的な結び付きを引き続き追求するはずだ。
最後に、悪意ある為政者がマドゥロ氏拘束という前例を利用する恐れがある。トランプ政権は同氏が米国で以前から起訴されていたため、今回の作戦は合法だと、もっともらしく主張している。1989年にノリエガ将軍を失脚させたパナマ侵攻を、米政府が過去に同様の行動を取った証拠として挙げることも可能だ。
中国がこの一連の動きを注視しているとすれば、それはトランプ氏の戦術、すなわち敵対国の封鎖や指導部の排除が、最終的に台湾に対して有用になり得るからかもしれない。
冷戦後の一極体制の時代には、米国は自らの戦術をライバルが模倣することを心配する必要がなかった。より厳しい環境にある今は、そうした戦術がいつか不都合な形で使われる可能性もある。
(ハル・ブランズ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。米ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院教授で、シンクタンク「アメリカンエンタープライズ研究所(AEI)」のシニアフェローで、マクロ・アドバイザリー・パートナーズのシニアアドバイザーも務めています。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:US Venezuela Victory May Help China Gain an Edge: Hal Brands(抜粋)
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