国のリーダーシップによる政策間のシナジーを働かせる新対策施策パッケージを
しかし、地方自治体の対応には限界がある。秋田県知事が「現場の疲労も限界を迎えつつある」と自衛隊の派遣を要請したことは、その実態を象徴している。
環境省のデータによれば、狩猟免許取得者は1975年度の51万7,800人から2020年度には21万8,500人に減少した。
また、2024年4月1日現在、全国の鳥獣行政担当職員は3,614名であり、そのうち専門的知見のある職員は37道府県に213名、クマに関しては18道府県に57名に過ぎない。限られた人員体制で対応している現場の状況がうかがえる。
こうした状況も踏まえ、警察官のライフル銃による駆除が本年11月13日から始まるほか、駆除スキルを持つ人材が「公務員(ガバメント)ハンター」として活動する仕組みの検討が進められている。
人身被害を減らす、より直接的で実効的な方策として、行政による体制整備が急がれる。
一方で、民間企業に目を向けると、クマ被害の防止に資する製品やサービスを提供する企業がある。
また、社会課題の解決や自社ビジネスの持続可能性の確保の観点から、クマの本来の生息地である森の整備や、人の生活圏との境で緩衝地帯となる里山の保全等、「人とクマのすみ分け」に寄与しうる活動を行う企業もある。
こうした民間企業の取り組みに関して、一例だが、環境省は「自然共生サイトに係る支援証明書」、農林水産省は「農山漁村振興への貢献活動に係る取組証明書」の制度を通じて、企業の貢献を評価している。
今般見直す対策施策パッケージには、こうした既存施策とのシナジーを働かせる視点を盛り込むことも有効ではないだろうか。
クマ被害は災害レベルの異常事態である。わが国は大地震や豪雨等の自然災害に対して、官民・被災地域内外の協力で対処してきた。
クマ被害対策も同様に、緊急・短期と中長期の両面でより効果的な対策を講じていくことができるはずである。
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※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 総合調査部 主席研究員 加藤 大典