台湾との関係を重視し、閣僚在任中も靖国神社への参拝を続けてきた自民党の高市総裁が総理大臣に就任した。隣国の中国は高市政権の誕生をどのように見ているのか?中国の政策決定に対して影響力を持つ政府直属のシンクタンク中国社会科学院日本研究所の楊伯江所長に話を聞いた。
高市政権は「新旧が入り混じった政権」
Q.自民党の高市早苗総裁が総理大臣に就任しました。
楊伯江 所長
第一に、高市政権は「新旧が入り混じった政権」だと思います。内閣の新しい点としては、半数以上の閣僚が初入閣で平均年齢は59歳と比較的若く、小泉進次郎防衛大臣はわずか44歳です。そして、政権運営の経験が豊富ではありません。国政での経験が豊富なのは茂木敏充外務大臣や林芳正総務大臣など、限られています。
一方で古さも感じられます。内閣のメンバーが全体的に保守的で右傾化しており、ポピュリズム的な傾向もあるという点です。一部のネットメディアは「日本憲政史上初の女性総理が誕生し日本の政治が進歩した」と指摘していますが、それほど単純な話ではありません。政治理念や政策の主張、歴史観なども含め、古いと感じるところがあります。ですので、高市政権の第一印象としては新旧が入り混じっていると感じました。
第二に、高市政権は「安保内閣」だと思います。自民党と日本維新の会が結んだ連立政権合意書には経済、皇室、社会保障など多くの内容が盛り込まれていますが、原則論が比較的多いと思います。内容が具体的で明確な期限を定めたものは安全保障分野における措置です。外交や安全保障は国家にとってとても重要なことではありますが、国民が最も関心を持っているのは身の回りのことであり、経済や生活に関わることだと思います。例えば、物価の上昇をどのように抑えるのか、インフレーションをどのように制御するのか、といったことです。財政・金融政策をめぐっても、財政出動を増やすのか、財政規律を強化し財政健全化を重視するのか、まだ明確ではありません。
Q.高市総理はこれまで台湾を重視する姿勢を見せてきました。直近でも自身のSNSで「台湾は重要なパートナー」と投稿しています。
楊伯江 所長
高市氏の第二次世界大戦に対する見方や靖国神社、台湾問題などに関する主張や発言は私自身もよく承知しています。高市氏の台湾に関するSNSの発信は、総理大臣に選出されたときではなく、10月4日の自民党総裁選のあと頼清徳氏が自身のSNSで祝意を表明し、高市氏が応答したものだと記憶しています。高市氏が使ったのは「パートナー」という言葉です。
【注】
台湾の頼清徳総統の投稿を受け、高市氏は10月13日自身のXに「自民党総裁就任に当たり、温かいお祝いメッセージ、心から感謝申し上げます。日本にとって台湾は基本的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人です。日台間の協力と交流が深まることを期待します」と投稿した。
高市氏はこれまで台湾問題を含む歴史問題に関して後ろ向きな発言をしてきましたが、日本の行政の最高責任者と政党のトップでは立場が異なります。言動により慎重になるべきです。
木原稔官房長官もここ数年台湾との交流を活発に行ってきました。木原官房長官は「これまでの基盤の上に台湾との実務的な協力を発展させる」といった趣旨の発言をしました。しかし重要なのは、高市政権が台湾問題における中国との約束をいかに忠実に履行するかです。
1972年の共同声明の取り決めは、日本からすれば約束であり、それは絶えず充実化・具体化されてきました。したがって、この問題に関して、高市氏や日本の現内閣は言動により慎重にならなければなりません。中国人の感情からすると、中国と日本の間の台湾問題と中国とアメリカの間の台湾問題は異なります。なぜならば、日本は下関条約が結ばれてから50年にわたり台湾を植民地として支配したからです。中国人の感情からすれば敏感な問題なのです。
ここで注目したいのは高市氏の台湾問題に対する説明です。高市氏は「台湾有事は日本有事」と言っていますが、理由の1つとして台湾と日本の距離が近いことを挙げています。しかし、距離が近いことは根拠とはなりません。距離は根拠にはなりませんので、この問題については慎重であるべきであり、言動に注意するべきだと思います。
Q.高市総理は閣僚在任中も含めたびたび靖国神社を参拝してきました。一方、総理就任後に迎えた秋の例大祭では参拝しませんでした。
楊伯江 所長
高市氏はこれまで毎年のように参拝していましたが、今回参拝せず慎重な姿勢を示したことは、高市氏が理性的であるということを示していると思います。しかし、日本のリーダーにとって靖国神社を含む歴史問題は、単に参拝するかしないかという行動面だけの問題にとどまりません。この問題の敏感さや複雑さを認識すべきだと思います。
要するに、周辺国との関係は日本外交の弱点となっているのです。したがって、靖国神社をはじめとする歴史問題に対処する際、高市氏のような政治家はアジアの歴史や日本と周辺国の関係についての歴史をよく認識する必要があります。そして、政治や選挙で有利か不利かという短期的な視点だけで考えるべきではありません。日本の政治家も問題をよりしっかりと認識して欲しいと思います。