日中首脳会談の可能性は「お互いの良好な意思疎通があるかどうか」
Q.31日から韓国で開かれるAPEC首脳会議に合わせ、高市総理と習近平国家主席が会談する可能性はあると思いますか?
楊伯江 所長
これはあなただけではなく私も関心を持っている問題です。国際会議の場を利用した二国間の首脳会談が実現するかどうかは、事前に良い意思疎通があり、シグナルを送れば相手から積極的な反応が返ってくるという関係があるかどうかだと思います。こうして最終的に、互いに会うべきだ・会うことができると思うようになるのです。これは比較的複雑なことであり、単に顔合わせをするということではありません。ですので、現時点で首脳会談が実現するかどうか明確な見通しは立っていないと思います。国際会議の場で中国と日本が首脳会談を実現できるかどうかは現時点ではなんとも言えません。
Q.高市総理からあまり良いシグナルが出ていないと中国側は評価しているのでしょうか?
楊伯江 所長
高市氏はこれまで国際問題にあまり関わってこなかったと思っています。経済安全保障担当の大臣を務めたことがあり、これが高市氏の経歴のなかで最も注目を集めたポストでした。ですので、高市氏はアメリカや韓国、もちろん中国も含め国際社会や外国に対する実感を持っていないのではないかと思います。
高市氏は総理就任後の会見で、日米関係や日米同盟、日韓関係について言及しました。アメリカや韓国との対話はいずれも差し迫っている案件です。まもなく韓国でAPEC首脳会議が開かれ、トランプ大統領と何を話すのか、李在明大統領と何を話すのかは差し迫ったできごとです。
高市氏は国際情勢について、私たちはいまどのような状況に置かれているのか、私たち人類はどのような時代を生きているのか、体系的な考えや認識を持っていないと思います。よって、総理就任会見では、私の記憶では中国について言及していませんでした。中国に言及しなかったのは、高市氏が中国について考えていなかったということではなく、まだ考える時間が必要だったということなのでしょう。つまり、国際問題に関する経験が豊富ではないということなのです。
牛肉よりも鹿?日本産水産物の輸入再開は「様子見」
Q.今年5月、日中両政府は日本産水産物の輸出再開で合意しました。また、日本産牛肉の輸出再開に向けても交渉が進められてきました。こうした手続きや交渉は高市政権誕生後も止まることなく進むのでしょうか?
楊伯江 所長
中国は福島など10都県を除く日本産水産物の輸入再開を発表しました。牛肉の輸入には、過去に日本でBSEが発生したため、検疫を行う必要があるでしょう。こうした手続きが行われた背景には、石破政権が積極的に動いたということがあると思います。中国からみれば、日本産牛肉の輸入が再開したとしても、全体の輸入量に占める割合はとても低いです。中国は牛肉の輸入大国ですが、輸入先は主にブラジルやアルゼンチンといったラテンアメリカに集中しています。ですので、日本産牛肉の輸入が再開したとしても、中国国内の牛肉市場には価格を含めそこまで影響を与えないでしょう。
一方で、これは日本にとっては重要な問題だと感じています。石破政権で自民党幹事長を務めていた森山裕氏の故郷・鹿児島県は良質な牛肉を生産しており、石破政権が積極的に輸出再開を推し進めていたことと関係があります。
しかし現状では、もう少し様子を見る必要があると感じています。なぜなら、先ほど指摘したように高市総理は中国との関わり方について考えを整理する必要があるからです。今のところ高市氏が関心を示しているのは、日本産牛肉をどうするかではなく、奈良の鹿が外国人観光客に蹴られ虐待されていないかどうかです。
この発言は自民党総裁選の際のものであり、総理指名選挙の際のものではありません。ただ、長期間にわたり政権を担ってきた老舗政党が、高まるポピュリズムや排外主義に合わせるためにこのような発言をすべきではないと思います。高市氏にとっては今後奈良の鹿について調査を行うのかどうかが問題となるでしょう。現地の関係者による「そのような現象は確認されていない」という証言もあるからです。「外国人が鹿を蹴った」というような荒唐無稽で根拠のない発言は控え、日本経済や国民生活のためになる実務を進めていくことを望みます。例えば、中国を含む海外に日本産牛肉の輸出を推し進めることは市民や畜産業界のためになります。
高市氏がこうした実務を進めていくことを望みますが、結論をいえば、中国との手続きや交渉にはまだ時間がかかるでしょう。