祖国を後にするエリートたち
この危機を象徴するのが、高度なスキルを持つ専門家、いわゆる「頭脳」の流出です。
データを見ると、パキスタンから出国する熟練労働者の数は、過去5年間で劇的に増加しています。
彼らは、国家が経済的破綻を回避するために最も必要としている税収の担い手でもあります。
その彼らが大量に国を去ることは、国の基盤そのものを揺るがしかねません。
アサド氏も、そんな一人です。
アサド氏はかつて、祖国のために何かしたいという熱い情熱を胸に、カナダでの高給の仕事をなげうって2015年にパキスタンへ帰国しました。
友人や家族が驚く中での決断でした。
しかし、その志も厳しい現実の前には長く続きませんでした。
「妻も私もパキスタンで働いていましたが、時間が経つにつれ、2人の給料を合わせても、高騰する家賃や燃料費を賄えなくなりました」。
生活を維持することすら困難になったアサド夫妻は、再び欧米でのチャンスを探し始めます。
結果、彼は米国の大学で博士号を取得するための奨学金を獲得し、2023年にマサチューセッツへと移住しました。
「頭脳流出は以前からありましたが、最近は激化しています。経済の状況が改善しなければ、将来的にさらに悪化していくでしょう」。
彼の言葉は、パキスタンが直面する問題の根深さを物語っています。
