保守色の強化か、改革の推進で党のイメージ刷新を図るのか。自民党総裁選は、党の路線選択を議員らに迫る選挙になりそうだ。

高市早苗氏

今回の総裁選では高市早苗前経済安全保障担当相、小泉進次郎農相の動向が注目される。右派の寵児で財政出動に前向きな高市氏と、規制改革の推進を掲げ、多様性にも目配りする小泉氏。2人の争いとなれば安倍晋三元首相の路線への回帰を目指すのか、若い指導者の下で改革政党として再建を図るのか、今後の方向性を示すものになる。

ジャパン・フォーサイトの創設者、トビアス・ハリス氏は8日、自民の現状について「最重要課題はどう近代化し、どう改革するかだ」と指摘。今回の危機を乗り越え、次の衆院選で勝てる政党になるためには、どんな党であるべきか、という問いに直面している」とブルームバーグテレビジョンで語った。

JNNが石破茂首相が退陣表明する前の6、7両日に実施した世論調査で「ポスト石破」にふさわしい議員として高市、小泉両氏は19.3%の同率でトップとなった。不出馬を明言した石破首相は8.6%、国民民主党の玉木雄一郎代表が5.8%と続いた。

ブルームバーグエコノミクスの見方

「高市、小泉両氏は、全く異なるビジョンを示している。片方は財政拡張主義で緩和的な金融政策を好む。もう片方は構造改革寄りだ。前者のリスクを債券市場が織り込み始める可能性がある」

木村太郎シニアエコノミスト

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市場でも総裁選への注目度は高い。日本が再び金融緩和や財政刺激策に戻れば、円安や長期金利の数十年ぶりの高騰につながる可能性があるからだ。総裁選で政策の不確実性が続く中、日本銀行の利上げ時期見通しを後ろ倒しするエコノミストも出始めている。

安倍氏の後継者を標ぼう

高市氏は安倍元首相の後押しを受け、リーダーへの階段を上った。保守的な政治信条で知られ、昨年の総裁選中に日銀による利上げをけん制する発言をするなど、大胆な金融緩和を掲げた安倍氏の後継者を標ぼうする。

首相に就任すれば女性初となる。参院選で「日本人ファースト」を掲げた参政党に流れた一部の有権者の支持を自民が取り戻すことができるかもしれない。

高市氏は昨年9月の総裁選期間中に出演したインターネット番組で日銀の金融政策について「金利を今、上げるのはあほやと思う」と発言した。

クレディ・アグリコル証券の松本賢マクロストラテジストは、高市氏について「金融政策に関しては間違いなくハト派的」とし、首相に就任すれば「アベノミクスへの回帰」とみていいと語った。特に財政について成長分野や防衛関連で拡張的な政策を進めるとの見方だ。

元首相の次男

小泉氏は2001年から5年半、党内の異論を押し切って郵政民営化などを進めた純一郎氏の次男だ。自身も石破政権の農相としてコメ価格の引き下げを進めたほか、コメ増産の政府方針を打ち出し、農家や党内の農水族議員から反発を受けた。

小泉進次郎氏

昨年の総裁選で選択的夫婦別姓制度の導入に賛成の立場を明確にしたことで保守層から批判を浴びた。雇用規制改革も波紋を呼んだ。

小泉氏は8月に大阪・関西万博の視察に訪れた際には日本維新の会の吉村洋文代表が同行。そろって記者会見するなど蜜月ぶりをアピールした。首相に就任すれば維新との協力関係を強化し、政権安定化に道を開く可能性もある。

早稲田大学の中林美恵子教授は高市、小泉両氏は全く違うタイプの政治家だとの見方を示す。小泉氏は「党内をまとめるということや、野党との協力ということも視野に入ってくる可能性はある」と指摘。高市氏に関しては保守的な「岩盤支持層」の票を取り込むため、 安倍氏が「上手に使っていた」と語った。

ただ、昨年の総裁選では議員票で3位、党員票で2位だった石破首相が決選投票に残り、逆転勝利した例がある。今回も林芳正官房長官などのベテランにもチャンスはある。

連立

自民総裁選の行方は野党時代も含め、25年以上続く公明党との関係に変化をもたらす可能性もはらんでいる。

石破首相が退陣表明した7日、公明党の斉藤鉄夫代表は、今後の自民との関係について「保守中道路線、私たちの理念にあった方でなければ当然、連立政権を組むわけにはいきません」と述べた。総裁選では「困った方に手を差し伸べる、隣国をはじめ平和外交を推し進めていく」との基本路線の議論を望みたいと述べた。

--取材協力:広川高史、山中英典.

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