(ブルームバーグ):日本銀行の植田和男総裁は大きな負の需要ショックが生じない限り、賃金には上昇圧力がかかり続けるとの見解を示した。金融政策は、人手不足に伴う経済の供給サイドの変化を踏まえて運営していくと語った。
植田総裁は、米ワイオミング州ジャクソンホールで開かれたカンザスシティー連銀主催のシンポジウムに出席。「技術と労働市場」をテーマに行われたパネル討論会での発言を日銀がウェブサイトで開示した。
賃金・物価動向について、新型コロナ禍後の世界的なインフレ進行が外的ショックとなり、プラスの物価上昇率が続くとの予想が定着したと指摘。今後も「大きな負の需要ショックが生じない限り、労働市場は引き締まった状態が続き、賃金には上昇圧力がかかり続ける」との見方を示した。
人手不足などを背景とした労働力率の上昇や労働市場の流動性の高まり、資本による労働代替の広がりが、経済の供給サイドに大きく影響していると発言。こうした動きは、労働市場の状況と賃金や物価との関係を複雑にするとし、供給サイドの変化も踏まえて金融政策を運営していくと語った。
日銀は米関税政策の影響によって政策判断で重視する基調的な物価上昇率がいったん伸び悩むものの、その後は2%の物価安定目標が実現していくとみている。賃金と物価が共に緩やかな上昇を続けるとの見方が根拠となっており、植田総裁はシナリオ実現に改めて自信を示したといえそうだ。
労働市場
植田総裁は、日本の労働力の供給には引き続き拡大余地があるとみている。女性の労働参加率は上昇してきているとしつつ、学童保育の一段の拡充などを通じた正社員比率の引き上げが考えられると述べた。
また、労働力人口に占める外国人労働者の比率は3%程度にとどまっているが、2023年から24年にかけての労働力人口の増加率に対する外国人労働者の寄与度は50%を超えていると指摘。その上で、外国人労働者を今後さらに増やしていくかについては、より幅広い議論が必要になると述べた。
人工知能(AI)の活用にも言及。日本企業による活用状況はまだ初期段階であり、AI活用が日本の労働市場に大きな摩擦を引き起こしている訳ではないとの見解を示した。
日銀は金融政策を据え置いた7月の金融政策決定会合で、2025年度を中心に消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)の見通しを引き上げた。コアCPIの上昇率は3年以上にわたって日銀が目標とする2%を上回り、22日公表の7月分は3.1%上昇と8カ月連続で3%台となった。
ベッセント米財務長官は13日、ブルームバーグのテレビインタビューで、日銀の金融政策運営について「後手に回っている」と発言した。植田総裁は、政策対応が遅れる可能性を否定しているものの、物価の上振れリスクや要人発言などを背景に市場の利上げ観測は強まっている。
ブルームバーグがエコノミスト45人を対象に1日に行った調査では、次の日銀利上げ時期について10月が最多の42%、次いで来年1月が33%、12月が11%となった。
パネル討論
パネル討論には、欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁、イングランド銀行(英中央銀行)のベイリー総裁も出席した。
ラガルド総裁は欧州の労働市場が一世代に一度とも言えるインフレショックや積極的な利上げにもかかわらず、驚くほどの底堅さを見せていると指摘。
討論会向けに準備された原稿によれば「インフレは急速に低下し、それによる雇用面の犠牲は驚くほど小さかった」とし、「このところの底堅さの源泉を理解することで、今後どのような形で訪れるか分からない次の衝撃に、よりしっかりと備えることができる」と述べた。
またベイリー総裁は英国の労働市場の問題がもはや失業ではなく、労働参加だと指摘。労働市場に復帰する人が増えなければ、経済押し上げにおいて生産性向上に一層重点を置く必要性が出てくると述べた。
低い生産性と低調な労働参加が相まって、英国では「潜在成長率の引き上げが喫緊の課題」になっていると指摘。「英国にとって非常に悲しい現実だ」と語った。
原題:ECB’s Lagarde Says Labor Market Has Weathered Recent Shocks Well(抜粋)
BOE’s Bailey Says UK Faces Challenge To Raise Potential Growth
(詳細を追加し、更新しました)
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