米国各地で選挙が実施された4日に筆者が目を覚ますと、全国共和党上院委員会(NRSC)からプレスリリースが少なくとも7本届いていた。いずれも民主党の上院候補者とニューヨーク市の次期市長ゾーラン・マムダニ氏を結びつける内容だ。

この動きは理にかなっている。議会は共和党が掌握しているが、トランプ大統領の支持率は低下し、経済も不安定だ。こうした中で、有権者の目をそらす「政治的スケープゴート」として理想的なのが、増税を訴え、過去には警察に敵対的な姿勢を見せ、ユダヤ人国家としてのイスラエルの存在を支持してこなかったとされる自称社会主義者だ。

これは、不人気な大統領を抱える与党が中間選挙で苦戦するという歴史的ジンクスを打ち破るための共和党の戦略だ。「ゾーラン・マムダニ氏は、単なる急進派の民主党議員ではない。彼こそが民主党の未来だ」と、下院共和党の選挙対策機関である全国共和党下院委員会(NRCC)の報道官マイク・マリネラ氏は筆者に語った。「彼の社会主義的な政策、反警察的なレトリック、そして経済に関する過激な見解は、民主党がこの中間選挙で否応なく擁護しなければならない青写真になっている」と述べた。

だがマムダニ氏(34)を巡る左右の対立よりも注目すべきなのは、中道左派と急進左派の間で高まりつつある内紛かもしれない。そして、それこそが本質的に重要な論点だ。なぜならニューヨークの市長が全国メディアの注目を集めるのは、今に始まったことではないからだ。

ワシントンでの政権奪還と党の将来像を巡って綱引きが続く民主党内では、これまでほとんど無名だったマムダニ州下院議員のニューヨーク市長選勝利は、6月に党指名を獲得した時点からある程度予想されていた。

大胆でリベラルなポピュリズムを掲げる進歩派は、全米レベルの選挙で勝てる運動を築く上で、マムダニ氏こそが模範となる政治スタイルだと位置付けている。進歩派団体「プログレッシブ・チェンジ・キャンペーン委員会(PCCC)」の共同創設者アダム・グリーン氏は、「マムダニ氏は民主党が見習うべき資質を持っている。新しく前向きなアイデアを持ち、既存体制に揺さぶりをかける雰囲気があり、地元有権者の生活実感に根ざした経済問題で共感を呼びつつ、大富豪の支配に挑戦している」と語った。

現実路線派は一方、民主党が圧倒的に強い都市でのマムダニ氏の成功を過大評価すれば、2026年の下院奪還や28年の大統領選勝利に必要な激戦州や接戦区で破滅的な結果を招くと警告している。

「ニューヨーク市で通用する政治を、接戦区にそのまま持ち込んでも勝てない。それだけのことだ。民主党は勝利に向けて決断しなければならない」と語るのは、1984年に共和党のレーガン大統領が地滑り的再選を果たした後、民主党の競争力強化を主導したアル・フロム氏だ。同氏が率いた民主党主流派組織「民主党指導者会議」は、現在は活動を停止しているが、92年のビル・クリントン氏の大統領選勝利を後押ししたことで知られる。

バージニア州知事選で民主党のアビゲイル・スパンバーガー氏が勝利したことは、党の進むべき方向性を巡る議論にさらに火をつけるだろう。同氏は2018年の中間選挙で中道志向を打ち出し、共和党が支配していたリッチモンドを中心とする郊外の接戦区をひっくり返して連邦下院議員に当選した。元中央情報局(CIA)職員でもあるスパンバーガー氏は、今回の知事選でも同様に中道路線を掲げて大勝した。SFドラマ「マンダロリアン」の決め台詞を借りれば、多くの現実主義的な民主党員は「これがわれらの道だ」と声をそろえるだろう。

しかし進歩派は評価を渋っている。対立候補である共和党のアールシアーズ副知事が弱かったことに加え、バージニアにはトランプ政権下で常に脅威にさらされてきた連邦職員が多く住んでいるという、有利な点を指摘している。

2018年に共和党が地盤としていた郊外選挙区をひっくり返し、現在はニュージャージー州の次期知事となった民主党のマイキー・シェリル下院議員については、さらに厳しい見方を示している。海軍出身のシェリル氏は選挙戦終盤で共和党候補ジャック・チャタレリ氏との支持率の差が縮まり、民主党内には不安が広がったものの、最終的には大差で勝利した。ただ、進歩派がシェリル氏のような合意形成型の政治が26年や28年に有権者の支持を集められると信じる度合いは、中道派がマムダニ氏の魅力を信頼している度合いと同程度だ。つまり、あまりないということだ。

進歩派団体PCCCのグリーン氏は選挙日前に筆者にこう語っていた。「ゾーラン・マムダニ氏とマイキー・シェリル氏は、26年や28年に求められる資質を備えた候補を民主党全体が選ぶ際に、比較すべき好対照の存在だ。シェリル氏にはビジョンがなく、労働者層の問題では共和党候補に押されていた。トランプ批判だけを掲げて戦った候補にすぎない」。

意外に思われるかもしれないが、グリーン氏がシェリル氏に抱く不満は中道的なことではなく柔和さにあるという。グリーン氏は、勝てる候補の資質は「ネバダでもニューハンプシャーでもジョージアでも、それぞれ異なる形で表れる」と語った。例えば、メーン州選出の中道派、ゴールデン民主党下院議員のような人物だ。グリーン氏は「活力ある経済ポピュリスト」と評している。

一方、党が中道回帰を目指すべきだと強く主張し、激戦区では「社会主義の天井」が現実に存在すると考える別の民主党関係者も、マムダニ氏の選挙戦に一定の評価を示している。

民主党中道・穏健派の政治活動委員会(PAC)「ウェルカムPAC」の共同創設者、リアム・カー氏は「マムダニ氏は生活費の高騰というひとつの大きな争点を選び、それを軸にすべてを構築した。警察問題やイスラエル、そしてX(旧ツイッター)ではウケても有権者には響かないようなレトリックからは距離を置く術を身につけた」と筆者に語った。

このように見ると、民主党が直面している問題は政策よりも、カリスマ性と新鮮味を備えた候補者をいかに見つけるかという点にあると言える。とはいえ、民主党はいずれ重要な政策課題について、党として一定の共通認識を持つ必要が出てくるだろう。党内には、トランスジェンダーの権利といった文化的問題、国境警備といった公共の安全に関する問題、米国とイスラエルの同盟といった外交政策、さらには増税すべきか否か、そして誰に対してかといった財政面での問題など、多くの分野で深刻な意見の相違がある。

政治スタイルも重要だが、中身も同様に重要だ。

(デービッド・M・ドラッカー氏は、政治と政策を担当するコラムニストです。保守系メディア「ザ・ディスパッチ」のシニアライターでもあり、著書に「In Trump’s Shadow: The Battle for 2024 and the Future of the GOP」があります。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:What Does Mamdani’s Win Mean for Democrats?: David M. Drucker(抜粋)

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