22日の米国株式相場は急伸。週間ベースでプラス圏に浮上した。ダウ工業株30種平均は過去最高値を更新して引けた。パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演が予想外にハト派的と受け止められ、投資家は利下げへの確信を強めた。

パウエル議長は雇用市場のリスクに重点をシフトすることで、インフレが完全に目標を達成するのを待たずに政策金利を引き下げる可能性を示唆した。

これを受けて株式市場に買いが広がり、S&P500種株価指数は5月以来の大幅高。金利低下が追い風となる銘柄が買いを集めた。大型ハイテク株は軒並み上昇。小型株の指数は4%急伸し、銀行株指数は過去最高値を更新した。

パウエル議長は「失業率など労働市場の指標の安定により、われわれは政策スタンスの変更を検討する上で慎重に進むことが可能になる」と指摘。「もっとも、政策が景気抑制的な領域にある現状では、基本見通しとリスクバランスの変化が、政策スタンスの調整を正当化する可能性がある」と述べた。

エバコアISIのクリシュナ・グーハ氏は「パウエル議長は9月利下げのドアを広く開け、金利を25bp引き下げる軌道にあることをはっきりと強く示唆した」と指摘。「議長の講演は市場が心配していたよりずっとハト派的だった」と述べた。

動画:パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長

eToro(イートロ)のブレット・ケンウェル氏はパウエル議長が引き締め的な政策を転換する時期にきている可能性を認めたため、リリーフラリー(安心感による上昇局面)に向かう下地が整ったと指摘。「FRBは現在、インフレ加速に加え、労働市場が悪化の兆しを見せ始めているという難しい局面に直面している。雇用情勢は急変しやすく、FRBもそのリスクを十分認識している」と述べた。

「利下げを尚早に、あるいは過度に行えば、インフレが再燃するリスクがある。一方で、利下げが遅すぎたり不十分だったりすれば、労働市場、ひいては経済全体の深刻な悪化を招くおそれがある。この微妙なバランスこそが、FRBが難しい立場にある理由だ」と続けた。

プリンシパル・アセット・マネジメントのチーフ・グローバル・ストラテジスト、シーマ・シャー氏は「確かに利下げの根拠は強まっているが、緊急対応レベルの0.50ポイントの利下げを正当化する経済的根拠はほとんどない。仮にFRBがそうした措置に踏み切れば、市場はそれをデータに基づく判断ではなく、政治的影響の表れと受け取る恐れがある」と述べた。

アバウンド・ファイナンシャルのデービッド・ラウト氏は9月のFOMC会合までに雇用統計の発表がもう1回あると指摘した上で「9月利下げを正当化するのに十分なデータは既にそろっている。株式市場は一般的に低金利を好む傾向があり、パウエル議長が9月の利下げの可能性に言及したことから、短期的には強気トレンドが続くとみている」と話した。

個別企業のニュースでは、経営不振に陥っている半導体大手インテルは、米政府による株式10%取得に同意したとトランプ米大統領が語った。事情に詳しい複数の関係者によれば、正式発表は22日中に行われる見通し。

アップルは音声アシスタント「Siri」の刷新に向けて、グーグルの人工知能(AI)モデル「Gemini(ジェミニ)」を活用する方向で協議に入った。AI分野で外部の技術を一段と取り入れる重要な一歩となる可能性がある。

動画:ボストン連銀のコリンズ総裁

米国債

米国債相場は大幅上昇。パウエル議長の講演を受けて市場では9月利下げの織り込みが深まった。2年債から5年債にかけての上昇が特に顕著となった。

米国債利回りは全年限で下がり、金融政策変更への感応度が高い2年債利回りは一時11ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)余り低下。10年債利回りは一時4.24%と、約1週間ぶりの低水準となった。イールドカーブのスティープニングが著しく、5-30年債の利回り差は2021年以来となる112bp超えとなった。市場は9月の0.25ポイント利下げを約85%の確率として織り込んだ。パウエル議長の講演前は65%程度だった。

パウエル議長講演後に市場が織り込んだ今後の利下げ確率

債券投資家にとって、パウエル議長の言葉は利下げ再開への期待を裏付けるものとなった。FRBは今年に入り、フェデラルファンド(FF)金利誘導目標を4.25-4.5%で据え置いている。市場は数週間前から、強弱入り交じった米経済データや他のFRB高官によるタカ派的なコメントに左右されてきた。

FOMCの日程に連動した金利スワップ市場は、年内2回の利下げを織り込んでおり、最初の利下げは9月に行われる可能性が高いと見込まれている。

これまで米利下げが12月に始まると見ていたドイツ銀行とバークレイズのエコノミストは、9月開始に予想を変更した。

セントルイス連銀の前総裁、ジェームズ・ブラード氏はブルームバーグテレビジョンのインタビューで「パウエル議長はこの講演を利用し、9月に25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利下げがあるとの観測を裏付けた」とし、「非常に弱かった直近の雇用統計を議長は重視していた。従ってこれは既定路線だろう」と述べた。

この日の米国債上昇は、7月の雇用統計が発表されて以来の大幅となった。

クレディ・アグリコルCIBのG10為替調査・戦略責任者、バレンティン・マリノフ氏はパウエル氏の講演について「根強いインフレから労働市場の弱さにリスクが変化したことを示唆する」と指摘。「9月の利下げに向け、一段の地ならしをしている様子だ」と述べた。

外為

ブルームバーグ・ドル指数は下落。パウエル議長の講演で9月利下げの確率が高まったと市場は受け止めた。円とユーロはいずれも1%余り上昇し、8月1日以来の大幅高となった。

円は対ドルで一時1.2%上昇し、146円58銭を付けた。7月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は、電気・都市ガス代の下落で前年比上昇率が前月から鈍化したものの、8カ月連続で3%台となった。

主要10通貨に対するドルの動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数は、一時0.9%余り下落。週間ベースでは3週連続安となった。

パウエル議長は「失業率など労働市場の指標の安定により、われわれは政策スタンスの変更を検討する上で慎重に進むことが可能になる」と指摘。「もっとも、政策が景気抑制的な領域にある現状では、基本見通しとリスクバランスの変化が、政策スタンスの調整を正当化する可能性がある」と述べた。

シティ・ウェルスのケイト・ムーア最高投資責任者(CIO)は「ドル下落は一時停止した」とブルームバーグテレビジョンで指摘。「市場が利下げサイクル再開を強く信じているのなら、ドルはもう少し軟化してもよさそうなものだ」と述べた。

パウエル議長が講演中にトランプ米大統領はワシントンで、クックFRB理事が辞任しないなら解任すると記者団に述べた。これを受けてドルはさらに下げた。

ブルームバーグ・ドル・スポット指数

原油

ニューヨーク原油先物相場は小幅ながら3日続伸。供給が一段と過剰になるとの見通しがある反面、パウエル議長が9月の利下げに前向きな姿勢を示したため、買いが優勢になった。

パウエル議長の発言内容が一部投資家の予想よりもハト派的だったことから、原油はリスク資産とともに上昇した。

金利低下は経済活動を刺激し、燃料需要の増加につながるとの期待があるほか、資金調達費用や保管費用のコストも軽減される。

ただ、夏季の需要期後に供給過多に陥るとの見方が引き続き重しとなっている。米国の対中関税が経済成長を鈍らせるとの懸念に加え、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成するOPECプラスが自主減産を巻き戻しているため、原油価格は年初来で10%余り下落している。

ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)10月限は前日比0.2%高の1バレル=63.66ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント10月限は0.1%上げて67.73ドルで終えた。

金相場は反発。パウエル議長が9月利下げに慎重ながらも道を開いたことでドルと国債利回りが下げ、金買いが膨らんだ。

INGグループの商品ストラテジスト、エワ・マンティー氏は「パウエル議長の発言を受けて利下げ観測が強まる中、金は再び過去最高値を更新する可能性がある」と述べた。議長の発言については、「今年の上昇相場を再び勢いづける上で、これまで欠けていた唯一の材料だった」と指摘した。

スポット価格はニューヨーク時間午後2時55分現在、前日比34.69ドル(1%)高の1オンス=3373.40ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は、36.90ドル(1.1%)高の3418.50ドルで終えた。

金スポットとブルームバーグ・ドル指数

原題:Dow Hits Record as Bonds Jump on Fed-Rate Cut Bets: Markets Wrap(抜粋)

原題:Treasuries Log Big Gains as Fed’s Powell Signals Rate Cuts Ahead(抜粋)

原題:US Treasuries Soar as Powell Says Risks May Warrant Rate Cut(抜粋)

原題:Dollar Sinks as Powell Opens Door to September Cut: Inside G-10(抜粋)

原題:Oil Rises as Possible Rate Cut Outweighs Bearish Supply Outlook(抜粋)

原題:Gold Advances as Powell Opens Door for Rate Cut in September(抜粋)

--取材協力:Lu Wang.

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