長年にわたりテクノロジー業界の頂点に君臨してきたアップル。しかし、その輝きに陰りが見え始めていると警鐘を鳴らす人物がいます。
16年にわたって誰よりも深くアップルの動向を追い続けてきたブルームバーグの担当記者、マーク・ガーマン氏です。現在のアップルが直面する課題と未来の展望について聞きました。
「今のアップルは非常に不安定な時期にあり、重大な岐路に立たされています」。ガーマン氏は今のアップルをそう表現します。

AIの危機に瀕するアップル
最大の課題が、「生成AI」での出遅れです。
「メタ、OpenAI、グーグル、マイクロソフトといった競合他社と比較して、アップルはAI開発で大きく後れを取っています。生成AIという、インターネットやスマートフォン以来の革命的な新技術の波に乗り遅れてしまったのです」
この状況を、ガーマン氏は「AIの危機」と表現します。
自社開発で競争に追い付くのにはもはや手遅れに近く、他社からAIモデルを調達し、それに「アップルらしさ」を加えていくしか道はないのではないかと、厳しい見方を示しました。

さらに製品についても、イノベーションの速度が低下していると指摘します。
「主力のiPhoneはこの5年間、見た目に大きな変化がありません。数年ぶりの新製品カテゴリーとして鳴り物入りで登場したVision Proも、正直なところ期待外れに終わりました。Apple Watchも近年は既存デザインの使い回しが目立ちます」
ガーマン氏によれば、スティーブ・ジョブズ亡き後、多くのファンが期待してきたような画期的な製品開発の勢いは失われ、既存機能の拡張やサービス事業への注力が目立つようになったといいます。
これは、アップルというブランドを支えてきた「革新性」というイメージを揺るがしかねない問題です。
そして課題の根底には、経営陣の高齢化という構造的な問題が横たわっています。
「ティム・クックCEOは今年65歳を迎え、COOだったジェフ・ウィリアムズも退任を発表しました。他の役員も60代前半から半ばに差し掛かっています」

次世代のリーダーシップが不透明な中、ハードウェア部門を統括するジョン・ターナス氏が後継者の有力候補ではないかと、ガーマン氏は見ています。