生成AI時代の新型「Siri」が遅れている
2024年6月に発表された生成AIの機能群「Apple Intelligence」は、AIでの遅れを挽回するためのアップルの回答とみられてきました。
しかし、ガーマン氏はその内実を冷静に分析します。
「競合と株式市場の要求に応えるため、急いで生成AIと非生成AIのツールを一つにまとめたものに過ぎません。発表された機能の多くは、実際にはまだ完成しておらず、実装は数ヶ月、あるいは年単位で遅れています」

特に、新しいSiriの核心となる3つの機能(ユーザーの文脈理解、画面認識、アプリ横断操作)は、開発の遅れから実際の提供までは時間がかかる見込みです。
ガーマン氏によれば、新しいAIエンジンと既存のエンジンを統合する過程で深刻な互換性の問題が発生し、開発が頓挫したといいます。
社内テストでは、正常に機能する確率が3回に2回程度という、製品としてリリースするには程遠い状態だったのです。
「開発者会議でのデモンストレーションは、フェイクやCGではありません。しかし、おそらく何度も撮り直し、ようやく成功したテイクを編集したものでしょう」と、その裏側を推測します。
この苦境を打開するため、アップルは自社のAIモデル(LLM)の力不足を認め、OpenAIのChatGPTやアンソロピックのClaude、グーグルのGeminiといった他社製モデルの導入を真剣に検討しているとガーマン氏は明かします。
実際に、iOSにはChatGPTの画像生成機能などが限定的に統合され始めており、これはアップルの戦略転換を示す重要な一歩だと分析しています。

なぜアップルはAIでつまずいたのか
世界最高の頭脳と潤沢な資金を持つはずのアップルが、なぜこれほどまでにAI開発で後れを取ってしまったのでしょうか。
ガーマン氏は、その原因をアップル特有の企業文化と組織の問題だとしています。
「一つは、大規模な買収や高額な報酬での人材獲得にアレルギーがあることです」
メタがトップクラスのAI研究者に数年で数千万ドル(数十億円)という破格の報酬を提示する中、コスト意識の高いアップルは人材獲得競争で後れを取っているとみています。
そしてもう一つ、ガーマン氏が大きな足かせだと指摘するのが「プライバシーへのこだわり」です。

「『性能は劣るかもしれませんが、プライバシーは万全です』という理屈は、もはや消費者には響きません。人々は最高のAI機能を求めており、プライバシーを開発遅れの言い訳にはできません」
競合他社がプライバシーのリスクを取ってでも機能開発を推し進める中、アップルの慎重さが逆に足かせになっているというのです。
このAI開発の遅れについて、ガーマン氏は経営陣の責任に言及します。
グーグルから引き抜かれAI部門に就いていたジョン・ジャナンドレア氏は「採用の失敗」、ソフトウェア開発を統括する担当上級副社長のクレイグ・フェデリギ氏については「AIの可能性を軽視してきた」といいます。

そして最終的な責任は当然CEOのティム・クック氏にあると、ガーマン氏は厳しく指摘します。