「SDGsは、今は流行らない」という声に立ち止まる理由
「最近、SDGsって聞かなくなったよね」「ちょっと流行りすぎたんじゃない?」——そんな声がビジネスの現場からも聞こえてくる。かつては企業も自治体もこぞってバッジをつけ、テレビや教材でも目にする機会が多かったこの言葉に、少し冷めた空気が漂っているのは否めない。
だが、この「飽き」のような反応は、果たして実態に即したものなのだろうか。Googleトレンドによる検索行動のデータをもとに、日本のSDGsとの向き合い方を改めて考えてみたい。
「突出した関心」は「過熱」ではなく「集中的普及」の結果?
Googleトレンドのデータを見ると、日本におけるSDGsの検索数は、2021年にかけて急上昇し、ついには検索人気の最大値「100」に到達している。

後述するが、対照的に同時期の米国やドイツでは20~30台にとどまり、明らかに日本だけが異例の盛り上がりを見せていた。
この現象の背景には、東京オリンピックの開催準備をはじめ、政府による全国的な推進、教育現場への急速な導入、企業による一斉対応といった、トップダウン型の広報活動も一因としてあるだろう。
言い換えれば、日本では「SDGs」という枠組みが、わかりやすく、かつ一気に社会へ浸透しやすい形で提供されたということでもある。
ESGとSustainabilityに注目する世界。SDGsに集中する日本
視点を世界に広げると、各国で注目されているキーワードに違いがあることがわかる。
たとえば、米国では「Sustainability」や「ESG」が長期的に高い検索水準を維持しており、特にESGは2023年に人気度が上限の100を記録している。
これはESG投資をめぐる政治的議論や州法の制定などが影響していると考えられる。

また、ドイツやフィンランドなど欧州では、「Greenwashing」への関心がわずかながらも動きを見せており、企業の環境主張に対する消費者の批判的視線があることが伺える。

その一方で、日本では「SDGs」への検索が圧倒的で、ESGやSustainabilityは常に低位にとどまっている。
これは、SDGsが「入口の言葉」として、他国で分散されている関心を日本では一手に引き受けてきたことを示唆しているとも言えるだろう。
「飽きた」のではなく「定着した」?——検索数の減少をどう読むか
2022年以降、日本でのSDGs検索(人気度)は減少傾向にあり、ピークアウトが見て取れた。
これをもって「やっぱり一過性だった」と判断するのは簡単だが、慎重に捉える必要もあると思われる。
たとえば、人々がある言葉を検索しなくなるとき、それは「知っていて当然」の段階に入ったというサインでもあるだろう。
たとえば「コロナ」や「キャッシュレス」といった言葉も、検索トレンド上では波があるが、社会から消えたわけではない。
実際、日本国内でも「ESG」や「Sustainability」への関心がじわじわと増えてきており、SDGsという包括語から、次の専門概念へと関心が分岐してきた可能性もある。
これはむしろ、社会的な理解が「広がりから深まりへ」移行しつつある過程とも見ることができるだろう。
「持続可能性」の安定的な増加——より生活に近い言葉で「持続可能性」を語る意識の広がり
さらに、2021年以降、「持続可能性」という日本語キーワードの検索数は安定的に増加している。
この傾向を、サステナビリティやSDGsといったカタカナ語や英語ではなく、「日本語としての定着」の兆しと捉えると、見える風景はまた変わってくる。
たとえば、「SDGs」というラベルを一つの通過点とし、より生活に近い言葉で「持続可能性」を語ろうとする意識が、日常やビジネスシーンの中で静かに育ち始めているように見える。
検索という行動に表れる言語選好の変化は、関心の深化や内面化の兆候とも読み取れる。
やや好意的な捉え方をすれば、今回取り上げたGoogleトレンドのデータだけを見ると、日本は「SDGs」という言葉を社会化させた、世界でも稀有なケースのひとつであるという可能性も浮かび上がる。
今後に向けて重要なのはこうした知識基盤をいかに次のテーマへとつなげていくかであろう。
たとえば、ESG経営への転換、脱炭素政策との接続、あるいは若年層との共創といった文脈において、SDGsを「きっかけ」として機能させながら「次」に繋げる視点が求められている。
そして今、「持続可能性」という言葉そのものが、ビジネスや生活の文脈で自然に使われ始めている。これは、単なるラベルを超えて、「中身のある日本の言葉」として拡張する良いタイミングであるとも言えるのではないだろうか。
※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員 小口 裕
※記事内の「図表」と「注釈」に関わる文面は掲載の都合上あらかじめ削除させていただいております。ご了承ください