4. 「AIと共に学ぶ時代」の教育で求められること
昨今、学校の夏休みが始まる頃になると、「教育委員会から各学校へ、夏休みの宿題でAIの使用は原則禁止」などの報道を見聞きするようになった。しかし、あえて問いたい。「先生、なぜ夏休みの宿題にAIを使用してはいけないのですか?」と。これは、学校教育が直面する本質的な課題を突きつける問いであるからだ。
AIと共に学ぶ時代において、教育はそのあり方を根本から問い直す必要に迫られている。AIを使うことは、単に効率化を図ることではなく、学びの質を高める手段になりうる。AIが提示する情報をもとに、自ら問いを立て、考え、検証し、表現する力を育むことは、これからの教育の一つの姿である。つまり、AIを使うことが「学びの放棄」ではなく「学びの深化」につながるような教育設計が求められる。
そのためには、教員と児童生徒が共にAIを使いながら学び合う環境づくりが必要である。教員はAIの出力を教材として活用し、児童生徒はそれを批判的に読み解くことで、情報リテラシーや思考力を育むことができる。また、AIを使った探究学習やプロジェクト型学習は、児童生徒の主体性や協働性を育む新しい学びの形として注目されている。こうした学びを通じて、AIを使いこなす力とともに、AIに依存しすぎない力、すなわち「AIリテラシー」と「人間力」の両立を目指すことができる。
結局のところ、「先生、なぜ夏休みの宿題にAIを使用してはいけないのですか?」という問いに対して、教員は「AIを使うと学びにならないから」と答えるのではなく、「AIをどう使えば学びになるか」を答えられるようになることが求められる。AIを禁止するのではなく、教員自身も日常的にAIに親しみ、その教育的な活用を模索することで、子どもたちの未来を切り拓く力を育んでいく。それこそが、AIと共に学ぶ時代の教育の使命であり、可能性ではないだろうか。
(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 主任研究員 西野偉彦)