トランプ米大統領は関税を経済政策の中心に据えるという選挙期間中の公約を、就任後に実行に移した。

トランプ氏が大統領2期目に導入した新たな輸入関税は、各種の猶予措置や軽減措置、例外規定があるとはいえ、米国にとって過去約100年で最大規模の保護主義的な転換となる。

この関税政策の規模は、世界最大の経済大国である米国を前例のない領域へと押し出し、貿易相手国を動揺させるとともに、世界の金融市場を揺るがしてきた。

トランプ氏は、全ての貿易相手国からの輸入に狙いを定めただけでなく、特定の産業分野を対象とする個別の関税も導入した。

トランプ氏が発動した関税措置は以下の通り。

  • 中国からの製品に対して30%の関税(一部例外あり)
    • 米中両国が5月中旬に相互の輸出品に対する関税を90日間引き下げることで合意した後の税率
  • 他の全ての輸入品に対する一律10%の関税(一部例外あり)
  • 対米貿易黒字が大きい国々からの輸入品に対する上乗せ関税(少なくとも8月1日まで発動を保留)
  • カナダおよびメキシコからの輸入品のうち、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の適用対象外の製品に対して、一律25%の関税
  • 鉄鋼およびアルミニウム製品に対して50%の関税(6月4日に25%から引き上げ)
  • 完成車(自動車)の輸入に対して25%の関税(一部、カナダ・メキシコからの輸入車は除外)
  • 自動車部品の輸入に対する25%の関税(2年間で段階的に導入)
  • 中国本土および香港から米国の消費者向けに直接発送される小包に対して54%の関税または一律100ドルの課徴金
    • 対象となるのは小売価格が800ドル以下の商品。このカテゴリーの荷物は、5月2日以前は「デミニミス」規定により関税免除となっていたが、新たに課税対象となった
米中の関税率は一時100%を超える水準に引き上げられた後、30%と10%で落ち着いた

貿易黒字国に対する関税はどうなっているか?

トランプ氏は米国に対して貿易黒字を計上している国からの輸入品に対する上乗せ関税を、4月9日の発動の数時間後に一時停止した。

停止措置は7月9日までとし、それまでに米国の貿易相手国が上乗せ関税を回避するための合意を目指すよう促していた。

トランプ氏は7日に国別の関税率を通告。発効は8月1日とし、交渉期間をそれまで延長した。

その間に合意が成立しない場合の日本、韓国、マレーシアからの輸入品に対する関税率は合計25%、南アフリカ共和国は30%、ラオスは40%としている。

トランプ米大統領

その他の関税措置は?

トランプ氏は4月中旬にスマートフォン、コンピューター、その他の民生用電子機器については、基本税率10%の関税および対中国の高関税から一時的に除外する措置を講じた。ただしこれらの製品も、後日導入される別の輸入課税の対象になると明言している。

さらに、トランプ氏は半導体、医薬品、食品、木材、銅、石油、ガス、加工済み重要鉱物、商業用航空機と関連部品、海運貨物取り扱い機器、米国外で制作された映画に対して新たな関税を課す可能性を示唆している

トランプ氏は関税で何を目指しているのか?

1月上旬に開かれた指名承認公聴会で、ベッセント米財務長官はトランプ政権が関税を3つの目的で活用する方針を示した。

  • 不公正な貿易慣行の是正
    • これにより米国の産業再活性化を図る
  • 連邦財政の歳入確保
    • 減税政策の財源の一部を補う狙い
  • 外交交渉のカードとして活用
    • 制裁措置を代わる外交手段として利用

この3つについて、詳しくみていこう。

Why Trump Unleashed Tariff Chaos
  • 競争条件の公平化

トランプ大統領は、米国の製造業の復活を促し、貿易不均衡によって米国が「損をしている」状況を是正するために関税を活用すると繰り返し主張している。

同氏は米国の貿易赤字の解消を目標に掲げ、その原因は相手国・地域の貿易障壁にあると主張。規制、輸入枠、国内産業への補助金、米国の知的財産権の不十分な保護といった非関税障壁の撤廃も各国に求めている。

米国は5大貿易相手国に対して貿易収支が赤字
  • 財源確保の手段としての関税

トランプ氏は関税収入を減税の財源に充てる方針も掲げている。トランプ氏の税制・歳出法案は4日に議会を通過し、大統領が署名し法制化された。

米議会予算局(CBO)の試算によれば、今回の税制・歳出法案によって今後10年間で3兆4000億ドル(約500兆円)の財政赤字が新たに生じる。

一方で、現在発動されているトランプ関税によって、10年間で2兆8000億ドルの赤字縮小効果が見込まれるともCBOは見積もった。

ただ、経済成長の鈍化やインフレ率の上昇といった副作用も指摘した。

  • 外交手段としての関税の活用

トランプ政権は関税を、通商政策の枠を超えた外交カードとしても活用する考えだ。

ラトニック商務長官は上院での承認公聴会で関税政策について、世界からの尊敬を取り戻す手段と位置付けた。

ベッセント財務長官によれば、トランプ氏は制裁措置が他国のドル離れを招いていると懸念し、代替手段として、関税をより幅広い外交交渉の材料とみなしている。

カナダ、メキシコ、中国に対する関税についてトランプ氏は合成麻薬フェンタニルの密輸を理由に挙げ、各国の取り締まり強化に満足を表明していた。

米当局による国境地帯での密入国者摘発数。トランプ政権2期目の発足前から減少傾向にあった

トランプ氏は米国の関税率を数十年ぶりの水準に引き上げた

中国の貿易慣行に対する主な批判は何か?

中国は2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟して以降、世界市場へのアクセスを大きく広げたが、自由貿易ルールの文言と精神の両方に反しているとの批判が絶えない。

具体的には、自国産業への補助金支給や中国で事業を行う外国企業に対して技術移転を事実上強制するといった行為が問題視されている。

動画:トランプ関税、実際に負担するのは

関税を実際に負担するのは誰か?

関税は輸入業者、またはその代理を務める仲介業者が支払う仕組みになっているが、実際のコストはさまざまな形で転嫁されるのが一般的だ。

トランプ氏は輸出国側が最終的に負担を引き受けることになると主張しているが、実際の負担構造はより複雑であることが複数の研究で示されている。

例えば、海外の製造業者が関税の影響を考慮して販売価格を引き下げ、輸入業者に譲歩するケースや、関税回避のために生産拠点を別の国に移すといった対応を取ることもある。

ウォルマートやターゲットなど米国の大手小売業者が、関税によるコスト増を自社では吸収せず販売価格を引き上げる可能性もある。この場合は消費者が間接的に関税負担を引き受けることになる。

関税は米国経済にどのような影響を与えるか?

関税の経済的影響は一概に評価しづらく、プラスとマイナスの両面を併せ持つ。

外国企業が関税回避のため工場を米国へ移転すれば、米国に投資が呼び込まれ、雇用が創出される。一方で、他国が報復関税を導入すれば、米国の輸出産業が打撃を受け、当該分野の雇用が失われることもあり得る。

また、関税を導入したからといって、米国内の企業がすぐに代替生産に乗り出すとは限らない。特に、対象となる製品に国内の供給元が存在しない場合は、価格の上昇が避けられず、消費者負担が増加することになる。

トランプ氏による関税政策は過去に例がない規模であり、インフレ加速や経済減速への懸念を招いている。

米連邦準備制度が2018年に示したモデルによれば、関税率が1ポイント上昇するごとに、米国の国内総生産(GDP)は0.14%押し下げられ、物価は0.09%上昇する。

このモデルに基づき、ブルームバーグ・エコノミクスは5月中旬、トランプ氏がこれまでに発動した関税によって、米国のGDPは最大1.5%減少し、インフレ率は0.9%押し上げられると試算した。

原題:Where Does President Trump’s Tariff Campaign Stand?: QuickTake(抜粋)

--取材協力:Wendy Pollack.

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