気候ファイナンスの名の下で犯された過ちから学ぶ時が来た。バークレイズの幹部がこう指摘している。温室効果ガス排出削減といった主要なテーマが地域社会に疎外感をもたらし、政治的な緊張に拍車をかけたことが一段と明白になっているとの見方だ。

同社サステナブル・トランジションファイナンスのグループ責任者、ダニエル・ハンナ氏は、多くの気候ファイナンスの課題の一つは、地域社会への影響について十分に考えてこなかったことだとインタビューで指摘。それが地域社会の「疎外感を招き、政治的な支持にもつながらなかった」と説明した。

気候ファイナンスは、保守系政治家の標的となっている。そうした政治家は、経済成長との両立が不可能だとして、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」目標を批判してきた。

米国では、ライト・エネルギー長官がネットゼロについて、地域社会を貧しくするひどい政策などと非難している。

こうした中、ハンナ氏は気候ファイナンスの過ちから学んだ教訓を、自然保全関連の戦略をマネタイズ(収益化)する取り組みに生かす必要があると主張。「単に気候の名前を付け替えたものとして取り組み直すのとは異なる機会がある」との見方を示した。

自然保全の恩恵について、排出削減といった抽象的に映る目標に比べ地域社会にとって実感しやすいとも述べている。

バークレイズなどは現在、自然保全をテーマに投資家を呼び込む戦略を立てており、一部の形態のファイナンスによる環境への悪影響を定量化・最小化する取り組みも進めている。

科学者らは生物種の絶滅の危機について警告。過去50年間、野生生物の個体数は約73%減少しており、世界で6度目となる大量の絶滅が進行中だと指摘する声もある。こうした事態は人命や経済、気候変動緩和の取り組みに深刻な脅威をもたらす。

ハンナ氏は「金融はグローバルであるため、商品化され拡張性があり再現可能なものが好まれる。しかし自然はそれとは正反対で、複雑で地域性がある」と指摘。そうした複雑さのため「自然も気候対策のように扱おう」と言いたくなるが、それは誤りだとした。

政治的な背景で違い

バークレイズが本拠を置く英国では、国内各地で再生可能エネルギー資産の整備が進められているが、太陽光・風力発電所や送電塔の開発に地域社会が反対するケースもある。

英政府は、こうした「妨害者」によりクリーンエネルギー計画を阻止させない方針を示してきた。スターマー政権は、新たなインフラによる具体的な利益を国民に実感してもらいたいとしている。

米国では、気候関連プロジェクトに対する地域社会の見方が、政治的な背景によって大きく異なる。ブルームバーグNEF(BNEF)のリポートによれば、約20州がESG(環境・社会・企業統治)に反対する法律を導入している一方、8州程度がESG支持の法律を成立させている。

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原題:Barclays Senior Banker Calls Out Mistakes of Climate Finance (1)(抜粋)

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