ノンアルコールビール市場の成長率が鈍化している。アンハイザー・ブッシュ(AB)インベブ、ハイネケン、ディアジオなどの飲料大手が資金を投入したことで、この分野はビール業界の数少ない明るい材料だったが、今や「第2章」が求められている。

アルコール飲料調査会社のIWSRによると、ノンアルビールは世界のビール市場全体の2%に過ぎない。2010年代後半の急拡大、さらに21年の再加速を経て、近年の市場の成長率は1桁台に落ち着いている。IWSRは今後、29年まで年間約8%の成長を見込んでいるが、それでも市場シェアは3%弱にとどまる見通しだ。

 

業界の苦戦

ノンアルビール市場への参入拡大は、ビール業界の苦戦の表れでもある。

クラフトビールはピークを過ぎ、低アルコール炭酸飲料「ハードセルツァー」ブームも沈静化した。若年層は外出を控えがちで、合法化された大麻がビールの代替品となりつつある。減量薬の普及も脅威だ。世界のビール出荷量は過去2年間で減少しており、大手ビール会社の株価もパンデミック前の水準には戻っていない。

ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の上級アナリスト、ケネス・シェア氏は「もはやノンアルコールへの参入は避けられない」と語り、大手ビールメーカーにとってノンアルは、変化する消費者の嗜好に対応する数少ない成長手段の一つだと指摘した。

ビール業界の再編はすでに限界に近く、上位5社が世界市場の半分以上を支配している。投資家がオーガニックな成長を求める中、ノンアルビールは「次なる注目株」となっている。

だが現時点では、ノンアルが業界の「万能薬」となるにはほど遠い。IWSRの予測では、ノンアル市場の成長があっても、世界のビール出荷量は今後5年間で横ばいにとどまる見通しだ。

マーケティング

現在、ビール各社はノンアルの魅力をさらに広げ、普段からビールを飲む層の取り込みを目指す。マーケティングの方向性も変化してきており、以前は「節度ある飲酒」や「責任ある選択」が主な訴求ポイントだったが、現在では、「いつでも気軽に楽しめる飲み物」として売り込まれている。

ハイネケンは2023年、ハイネケン0.0のグローバルアンバサダーにF1ドライバーのマックス・フェルスタッペンを起用した

ハイネケンのノンアルビール「ハイネケン0.0」の新キャンペーンは、「飲みたいときに飲めばいい」と訴えるもので、このカテゴリーに対する抵抗感を払拭しようとする同社の取り組みの一環となっている。ハイネケン0.0は100カ国以上で販売され、24年は10%超の成長を記録した。

世界最大のビールメーカーであるABインベブは、「ミケロブ・ウルトラ」を「運動好きな人向けの低カロリービール」として打ち出し、米国で最も売れるブランドに育てた。昨年9月には、そのノンアル版「ミケロブ・ウルトラ・ゼロ」を発表。テレビCMでは、ビーチバレーの合間に若者たちが缶を開け、再び試合に戻る姿が映され、「プレーを続けよう」とナレーションが流れる。

米国での広告投資が、他の市場以上に強いノンアルビールの成長を支えている。IWSRは、今後10年間で米国のノンアルビールの出荷量が年平均16%のペースで増加すると予測している。

かつてノンアルビールは、熱処理によってアルコールを除去する過程で風味が損なわれるため、愛飲者を獲得できずにいた。

だが近年、各社は味の改良に向けた技術開発に投資を進めている。ABインベブのベルギー研究所では、科学者らが10年以上、ノンアルビールの製法を改良し続けてきた。同社は現在、低温でアルコールを除去し、失われがちな香り成分を再添加することで、元の風味や香りをより忠実に再現している。

 

北米ディアジオでビール・プレミックス部門を統括するローラ・メリット社長は「10年前のように、限られた選択肢から妥協して飲む時代ではない。ノンアルコール飲料にも、アルコール飲料と同じ高い基準が求められている」と語る。

ただし、その基準を満たすことが、より多くの人々をノンアルに転向させることに直結するとは限らない。「節度」や「低リスク」を訴求する食品・飲料は初期に成功しても、その後失速する例が少なくない。ノンアルビールが植物由来の代替肉のように失速するのか、それともダイエット炭酸飲料のように定着するのか、それが今後の焦点となる。

原題:Struggling Brewers Try Pushing Nonalcoholic Beer to Mainstream(抜粋)

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