世代間の育児方針の違いを乗り越えるためには
冒頭で述べたとおり、祖父母は今なお子育ての担い手として重要な役割を果たしていることは確かである。
しかし、第1子が1歳のときに就業していた妻に限定すると、祖父母から手助けを受けた割合は 2000 年代以降、ゆるやかに減少傾向にある。
過去は、働く母親ほど祖父母に育児を頼る傾向があったが、保育園など外部化のできる環境が整えられたことで、祖父母による育児支援が外部サービスへと置き換わっていると考えられる。
公的支援がさらに充実すれば、子育て方針が合わない祖父母に頼るより、外部サービスを利用するほうが気が楽だという親が増える可能性もある。
また、子育て方針が合わない祖父母自身も、わざわざ自分の時間を犠牲にするくらいなら、孫の世話をしなくてよいと考える者が出てくるかもしれない。
しかしながら、祖父母と孫のかかわりは、祖父母・親・孫の3世代にとってそれぞれに良い影響があることも忘れてはならないだろう。
たとえば、孫にとっては、祖父母と接することで自分のルーツを知り自尊心を高めるきっかけになったり、親にとっても強力な情緒的な支えになる。
さらには、祖父母自身にとっても、孫とかかわることで、生きがいができたり、自分が亡くなったあとも理念や精神が次世代に引き継がれるという安心感が得られ、未来の不安が払しょくされることもある。
また、祖父母と親が互いを尊重し合う良好な関係性は、孫に高齢者全体への肯定的な感情をうながす効果があるとも報告されており、高齢化がすすむ社会全体にとっても大きな意味がある。
だからこそ、育児方針の違いがあっても関わりをあきらめることなく、親と祖父母が協力して乗り越える姿勢が重要なのではないだろうか。
そのためにはまず、祖父母自身が現代の子育て環境や方法を学ぶ意欲をもつことが望ましい。
各地で開催されている孫育て教室や書籍・インターネットなどで最新の子育て情報やトレンドを得て理解することで、親世代とのギャップを和らげることができるかもしれない。加えて、子どもの親が育児の主体である以上、過度な干渉は控えるような心がけも大切であろう。
一方、親は祖父母に対して、祖父母世代が経験してきた育児や社会環境を尊重する姿勢が求められる。現代の祖父母は、孫育てには干渉してはいけないとする考えを持っており受け身であろうとする傾向もある。
そのため親としては、祖父母が何も言わないから納得しているとは思いこまず、「現在の育児はこれが主流だけど、私(配偶者)を育てていた頃はどうだった?」などと情報交換を促してみると、思いがけず育児観の違いに気づいたり、現在の育児に活かせる知識を得られる場合もあるだろう。こうした会話は、孫をきっかけとした親子間のコミュニケーションとしても意味がある。
また、どうしても分かり合えない場合であっても育児方針の相違はひとまず脇におき、孫への愛情や世話に対して感謝の言葉を伝えてみるのも一つの方法である。そうした思いが伝われば、たとえ育児方針にずれがあっても、祖父母は自分がかかわる意義や喜びを感じやすくなるだろう。
親子関係だからこそ、育児方針のすれ違いで、互いに傷ついたり、ストレスを感じることもあるだろうが、子ども(孫)を大切に想う気持ちは共通しているはずである。その原点に立ち返ることで、より良い三世代関係を築く道が開けるのではないだろうか。
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(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 副主任研究員 福澤 涼子)