ブリリアント・ジャークを無効化する人材は育成可能
冒頭で紹介した某社では、ブリリアント・ジャークに対して「そもそも社内に所属させない」という対処をしているが、解雇規制が厳しい日本企業では現実的ではない。
では、我々がこの「ブリリアント・ジャーク問題」に直面したとき、どう対応すればいいのだろうか。
有名な実験に「腐ったリンゴの実験」というものがある(W.Felps,et al.、2006)。チームに悪影響を与える典型的な3タイプを想定し、演技力の高い人物にその役目を演じさせ、44名の組織内で組織の生産性にどの程度影響を与えたかを調査した。その結果、タイプに関わらず生産性が30〜40%低下することが明らかとなった。
ブリリアント・ジャークは上記タイプのいわゆる「性格が悪い人」に該当すると考えられ、組織の生産性を30〜40%低下させ得る人物と推察される。
しかし、実験はここでは終わらない。たとえ組織に悪影響を与える人物(腐ったリンゴ)がいたとしても、それを中和する人物を参加させることで、組織のパフォーマンスを維持できることもわかった。中和する人物(いわゆる美味しいリンゴ)は、リーダーではなく、一般メンバーの一人である。
そして暴言等の「腐ったリンゴ」の行動に対して注意したり対抗したりしない。その代わり、メンバーが暴言を吐いたりすると、身を乗り出して笑顔になって場を和やかにしたり、他のメンバーに簡単な質問をして、それを熱心に聞いたりする。
そうしたことにより、一人ひとりの心を開き、暴言等が打ち消され、他のメンバーへの「腐り」の伝播が止まるのだ。
このような「美味しいリンゴ」の行動、いわゆる場の安心感を醸成する態度には「交流へのエネルギー」「個人の尊重」「未来志向」といった3つの特徴があることがわかっている(Pentland,2014)。
具体的な行動としては、物理的な距離の近さ、アイコンタクト、相手と同じ動作をする、順番に話を振るなど相手を気にかける、ボディランゲージといった行動である。
組織のなかで「場の安心感」を醸成することはとても難しく、前述の実験の例のように、「腐ったリンゴ」役がたった1人いるだけで、「場の安心感」はすぐ壊れてしまう。
組織のなかに「美味しいリンゴ」を増やすこと、また同時に自分自身が「美味しいリンゴ」となることで、ブリリアント・ジャークを無効化し、組織の生産性につなげられるのではないだろうか。
日本企業において、現段階では「美味しいリンゴ」人材を評価するようなシステムは確立されていないが、海外では、社内文化への適合度(Culture Fit)を評価し、傾聴や共感的なボディランゲージ等の社員同士のコミュニケーションの質を評価基準に盛り込んでいる企業の事例もある。
日本企業でもこのような人材を増やすべく、評価制度の見直し等が求められる。
(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 総合調査部 副主任研究員 髙宮咲妃)