一見穏やかなウォール街の市場の裏側で、有力プロ投資家の一部に波乱が広がっている。

クオンツファンドは今月、人気が集中していた高収益ポジションの巻き戻しで打撃を受けている。特に22日の取引では、上昇を続けていた金やハイテク株、暗号資産(仮想通貨)が同時に急落し、行き過ぎたモメンタム取引のリスクがあらためて浮き彫りとなった。

ゴールドマン・サックスのプライムブローカレッジが23日に公表したリポートによれば、クオンツ系のロング・ショート戦略ファンドは10月に1.7%下落し、7月の大幅相場変動以来となる損失を記録した。これに対し、ファンダメンタルズ重視の運用を行うファンドはおおむね横ばいの成績となっている。

ヘッジファンド・アラートによると、運用資産200億ドル(約3兆600億円)規模のルネサンス・インスティテューショナル・エクイティーズ・ファンドは今月10日までに約15%下落した。同社の担当者はコメントを控えた。

現時点で損失は、ロング・ショート戦略を採用する機関投資家に限定されている。株式市場全体では堅調に推移し、S&P500種株価指数は週間で1.9%上昇、ナスダック100指数も2.2%上昇して取引を終えた。

ビットコインは約11万ドルと、直近の高値を大きく下回り、金は21日に5%余り下落した後、小幅な反発となった。

モメンタム取引の巻き戻しとは、人工知能(AI)関連株や欧州銀行株、金などこれまで堅調に上昇してきた銘柄・資産の値動きが一服し、それらの上昇に乗っていた投資家が打撃を受けているということになる。

一例として、モメンタム株を追跡するモルガン・スタンレーのロング・ショート型バスケットは、22日までの5営業日で11.3%下落し、3月以来最大の下げとなった。

同時に、主に高収益で負債の少ない企業など、比較的堅実とされる「クオリティー」要因や「低ボラティリティー」要因に連動する戦略も損失を被った。中央銀行による金融緩和への期待で投資家のリスク選好が強まり、ファンダメンタルズが脆弱(ぜいじゃく)な企業の株価が上昇したのが理由だ。

クラウドソーシング型のシステマチック・ヘッジファンド、ニューメライ(運用資産約4億5000万ドル)の創業者、リチャード・クレイブ氏は低クオリティー株が上昇する「ジャンク・ラリー」について、低クオリティー株を空売りし高クオリティー株を保有しているケースが多いクオンツにとって痛手となると話す。

さらに「損失が大きくなり過ぎると、クオンツファンドはショートポジションの損失を埋めるためにレバレッジの解消を始めて事態を一層悪化させ、連鎖的なデレバレッジを引き起こす」と指摘した。

 

全体として、今回の下落は夏場の動きと類似している。当時もジャンク・ラリーが発生し、クオンツにとって好調だった相場が一転して崩れた経緯がある。今回は特に、投機的な人気銘柄の値動きが一段と激しくなっている点が特徴だ。

ゴールドマン・サックスが算出する市場で最も空売りされている銘柄のバスケットは、10月に入ってこれまでに一時21%上昇し、ヘッジファンドに損失をもたらしたと考えられるが、その後24日までに上昇率はほぼ半減した。

空売り比率の高いビヨンド・ミートは、個人投資家の買いが殺到したことで21日に146%の急上昇となったものの、その後急落した。

ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナルでクロスアセット戦略部門マネジングディレクターを務めるチャーリー・マケリゴット氏は、10月初めに一部の投機的銘柄が上昇した後、最近になって売られる展開について、再び「クオンツ・クエーク(クオンツ市場の地震」が生じる兆しがあるとリポートで指摘した。

 

株式市場で急激な資金シフトが最も顕著に見られるのは、直近で大幅上昇した銘柄を買い、大幅下落した銘柄を売るモメンタム戦略だ。ゴールドマン・サックスの株式営業担当、イオアニス・ブレコス氏は今週、ヘッジファンドが歴史的に高水準にあるこのファクターへのエクスポージャーを引き下げ続けているため、モメンタムの下落局面は今後も続く可能性があるとの分析を示した。

ウォルフ・リサーチでクオンツ分析を統括するイン・ルオ氏によると、クオンツ系ヘッジファンドは幅広いトレーディングシグナルを用いており、その多くは独自のものかもしれないが、10月のパフォーマンス低下は多くのファンドが共通して採用する投資スタイルでの大幅損失によって説明できるという。

モメンタムに加え、割安株を選好するバリュー、高収益かつ低レバレッジの企業を選ぶクオリティー、低ボラティリティーも今月は軒並み下落している。

ルオ氏は電子メールでこうしたファクターの下落に関し、「機関投資家は時折リスク予算を急いで削減せざるを得なくなる。こうしたタイミングのずれが、さらなるリスクオン・リスクオフ取引を誘発する可能性がある」とし、「自己実現的な動きが事態をさらに悪化させている」とコメントした。

原題:Fast-Money Quants Stumble as Momentum Bust Roils Strategies(抜粋)

--取材協力:Isabelle Lee.

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