質の高い保育の実現

以上みてきたとおり、保育のニーズは待機児童数だけでは測れない。

「待機児童ゼロ」という言葉だけで判断すると、保育政策の評価や保護者の実情について正しく理解されない懸念がある。

隠れ待機児童に含まれる「特定の園を希望」や「育休延長」を単なる個人の選択と捉えるのではなく、その選択をせざるを得ない背景に目を向けるべきであろう。

待機児童ゼロは、保護者の「無理」で成り立っている面がある。

たとえば、入園しやすい0歳で預けて夜泣き等で寝不足の中仕事をする、遠くの園に送迎する、やむを得ず時短勤務をする等々だ。

こうした「無理」は保護者の就労・昇進意欲の低下につながる可能性がある。

当研究所の調査では、男女ともに子どもを持つ前にキャリアプランを立てていた有職者の約半数が、子どもの誕生後にプランの変更や喪失を経験している。

現在の保育政策は、待機児童が大きな社会問題であった10年前よりも大幅に改善はしている。

しかし、預けられる場があるならよい、昔よりいいだろうと議論を止めてしまうと、保護者の無理が続く。

また、待機児童ゼロとは、いわば「大学全入時代」のように「選ばなければ入れる」という状態に近い。

保育は未来の人材を育てる場であるとともに、現役世代の就労や生産性向上に直結する場である。

両立しやすい社会ならば、第二子以降も前向きに考えられ、それは人口減少対策にもなる。

「入れればよい」という状態に満足せず、保育士の処遇改善を含め、保育の内容や利便性の一層の向上が求められる。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 主任研究員 鄭美沙)