本稿は、厚生労働省「受療行動調査」等のデータに基づき、自覚症状がない状態での患者の受診行動と健康診断(以下、健診)との関連性を考察するものである。
同調査によると、2023年に外来患者が病気や症状で初めて医師の診察を受けた際、「自覚症状がなかった」と回答した割合は約28%に達し、3~4人に1人が無症状で受診していることが確認できた。こうした受診者の割合は年々増加傾向にあり、自覚症状がない段階での疾病発見の重要性が高まっている。
自覚症状がないにも関わらず病院を受診した主な理由としては、「健康診断(人間ドックを含む)で指摘された」が最多で、その割合は5割近くにまで増加している。
この結果は、健診時の検査値異常や医師の所見が、症状のない人々の受診を促す大きな要因となっていることを示唆している。
しかしながら、国民の健康状態把握に不可欠な健診の受診率は依然として課題を抱える。
厚生労働省の統計調査では20歳以上の健診受診率が約70%(2019年)、また40歳以上74歳以下が対象の特定健康診査受診率は約60%(2023年度)に留まり、国民の3~4割が健診未受診という実態がある。
自覚症状がない場合、健診での指摘が受診理由となる割合が高い傷病には、糖尿病等の「内分泌,栄養及び代謝疾患」、悪性新生物等の「新生物<腫瘍>」、高血圧性疾患等の「循環器系の疾患」といった生活習慣病が上位を占める。
これらの疾患は初期症状が現れにくいため、健診が自覚症状のない段階での異常発見を可能にし、早期治療へ繋げる一助となっていると推察される。
本稿の考察から、健診は自覚症状がない段階での疾病発見、とりわけ生活習慣病の早期発見・早期治療に極めて重要な役割を果たすことが確認された。
少子高齢化・人口減少が加速する日本において、個人の健康は「エイジレス社会」の実現と人的資本の向上に不可欠であり、健診はそのための効果的な「ナッジ」となり得る。
本分析結果が示すように、現役世代はもとより、全ての世代が健診を積極的に受診し、生涯にわたる健康増進への意識を一層高めることが期待される。
新年度に入り、今年もそろそろ職場等で健康診断(以下、健診)を受診される方が増えてくる頃ではないだろうか。
健診の目的は、一般的に自身の健康状態の把握、生活習慣の改善、そして疾病の早期発見・早期治療にあるとされる。
本稿では、2025年3月に公表された厚生労働省「受療行動調査(確定数)」等のデータに基づき、自覚症状がない状態での患者の受診行動と健診との関連について考察する。
なお、同調査は3年ごとに実施されている。
調査方法としては、10月中旬の3日間のうち厚生労働省が病院ごとに指定した調査日において、その病院を利用した患者に対し、医療を受けた際の状況等について尋ねるものである。