エイジレス社会実現に向けた健康資本の維持・増進
本稿では、厚生労働省の「受療行動調査」から、自覚症状がない場合でも、人間ドックを含む健康診断が医療機関への受診行動を促す大きなきっかけとなっていることが確認できた。
これは、自覚症状のない段階での定期的な健診や検査が、無症状のうちに異常を発見し、早期治療につなげる上で極めて重要であることを示唆している。
少子高齢化・人口減少が加速する日本において、持続可能な経済社会を構築するためには、年齢に関わらず誰もが生き生きと活躍できる「エイジレス社会」の実現が喫緊の課題である。
特に特定健康診査の対象者(40歳以上74歳以下)は働き盛りの世代であり、企業など組織の中核を担う層といえる。
その基盤となるのは、言うまでもなく個々人の健康であり、健康の維持増進・疾病予防への主体的な取り組みは、貴重な人的資本を育み、ひいてはわが国の生産性や競争力の向上にも直結する不可欠な要素といえるだろう。
本稿で浮き彫りとなった健診の役割――すなわち、疾病の早期発見や早期治療を効果的に促し、個人の行動変容を後押しする「ナッジ」としての機能――の重要性を社会全体で改めて認識する必要がある。
本調査分析が示すように、現役世代はもとより、全ての世代が健診を積極的に受診し、生涯にわたる健康増進への意識を一層高めることが期待される。
(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 総合調査部 研究理事 谷口智明)