ソフトバンクグループが出資している米スポッターはほんの数年前まで、急成長するユーチューブのクリエーター支援市場で、最も評価の高いスタートアップの1社だった。

ソーシャルメディアの人気者らに数百万ドルを前払いし、その見返りとして動画収入の一部を受け取ることで、活動を支援していた。「ミスタービースト」や「デュードパーフェクト」といったインフルエンサーは、スポッターとのパートナーシップで知られる。

カリフォルニア州カルバーシティーに本社を置くスポッターは2022年、ソフトバンクG主導の資金調達ラウンドで2億ドル(約290億円)を調達し、評価額が17億ドルに達した。

アーロン・デべボワス氏(2022年)

だが、スポッターは昨年、財務目標を達成できず、従業員を約4割削減した。大口パートナーが契約を解除し、ユーチューブが短い動画を重視する方針にシフトしたことで売上高も落ち込んだ。

同社は今、広告や人工知能(AI)関連サービスといった新規事業への投資で収入減の穴埋めを図っているが、目立った成果はまだ出ていない。

スポッターはこれまで、デジタルメディアの次なる主役に照準を定めた投資家から資金を得ていた。だが、そうした投資家の高い期待に応えられずにいたことが多かった。

創業者兼最高経営責任者(CEO)のアーロン・デべボワス氏はインタビューで、「世界が変わった」と語った。スポッターが資金集めをしたのは、投資家が「何よりも成長を重視」していた時期だったが、今は利益をより強く求めるようになったという。

スポッターと同業のジェリースマックも、クリエーターに資金提供を行っていた。かつては銀行や従来型の投資家がニッチでリスクが高いと見なしていたユーチューブ業界に、スポッターもジェリースマックも先んじて参入した。

しかしここ数年、投資家自身がクリエーターに直接投資するようになり、スポッターのような企業の存在感が薄れつつある。ベンチャーキャピタルや銀行から直接資金を得ることで、クリエイターらはもはやスポッターを必要としなくなった。

ショート動画

デべボワス氏は19年にスポッターを創業する前、ユーチューブのタレント支援を行うマシニマで働いていた。

広告販売やタイトル作成、サムネイル(動画の顔となる静止画)選定などを手助けしていたマシニマは、映画会社のワーナー・ブラザースが16年に買収。ワーナーはユーチューブ関連のノウハウ獲得を狙ったものの、マシニマは19年に閉鎖された。

スポッター創業から間もなく、新型コロナウイルスの流行が始まり、外出制限により人々の動画視聴は急増。ユーチューブやインスタグラム、TikTok(ティックトック)などを通じ、クリエーターには多額の利益がもたらされた。

スポッターは、アマゾン・ドット・コム創業者ジェフ・ベゾス氏の親族マーク・ベゾス氏やソフトバンクGなどから資金を調達。ソフトバンクGはジェリースマックにも投資し、フェイスブック動画からの収益化支援を後押した。

スポッターでは、デべボワス氏が予想していたほどユーチューブの再生数が安定しなかった。ユーチューブは21年、15秒から3分のショート動画を導入した。アルゴリズムも短尺動画を推奨するように変更され、長尺重視だったスポッターが支援した動画の再生回数は減少した。

スポッターはトップクリエーターとのビジネスの一部で損失を出していたと、社内事情に詳しい11名が匿名で明かしており、ミスタービーストもその1人とされた。

ミスタービーストの広報担当者はコメントを控え、デべボワス氏も特定のクリエーターとの案件で損失が出たかについては明言できないとしている。

スポッターによれば、ミスタービーストとデュードパーフェクトは2人とも引き続きアクティブなパートナーだという。

AIシフト

スポッターは、損失抑制に向けクリエーターとの契約条件を調整。また、少なくとも投資資金を回収するまで収入を得続けることができるような契約にした。

同社は昨年、AIを活用した動画企画立案やサムネイル作成、プロジェクト計画を支援する「スポッター・スタジオ」を月額50ドルで始めた。

だが、元社員によれば、料金が高過ぎ多くのユーチューバーに敬遠されたという。加入目標を達成できず、エンジニアやプロダクトマネジャーらの多くを減らした。昨年11月にスタッフの15%に当たる約35人を、今年5月にはさらに40人を解雇した。

スポッターの広報担当者はスポッター・スタジオへの投資を続け、チームを拡充していると述べた。だが、同社は有料ユーザー数の開示を避けている。

原題:SoftBank-Backed Startup Harmed by YouTube Shift to Short Video(抜粋)

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