(ブルームバーグ):ハンマーを手にしていれば、あらゆる物がくぎに見えるだろう。地政学上、最も大きな影響力を発揮する手段として、高性能磁石やレアアース(希土類)の供給停止をちらつかせる中国は今、何であれ、たたきのめすべき問題として捉えている。
台湾有事の可能性に言及した高市早苗首相の国会答弁に反発を続ける中国は先週、軍事用途の可能性がある全品目の対日輸出を即時禁止すると発表。この脅しの最も明白な標的は、ネオジムやプラセオジムを使って製造され、サマリウムやジスプロシウム、テルビウムといったより希少な元素も添加されるようになったレアアース磁石だ。
レアアース磁石は、充電ケーブルから風力発電用タービンのスイッチギア、電気自動車(EV)の駆動モーター、ミサイルの誘導装置、航空機のフラップに至るまで、あらゆる分野で使われている。
ただし、問題が1つある。中国のこうした脅しに対して日本ほど備えができている国はそれほど多くない。2010年の尖閣諸島を巡るにらみ合いを背景に、日本はすでにレアアース供給を減らされている。その経験から、まさにこうした事態に備えて、サプライチェーンの多角化と備蓄の積み増しに長年取り組んできた。
米国の屈辱
スイスの銀行UBSと三井住友信託銀行の合弁「UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント」によると、世界のネオジム磁石の約80%を生産しているのは中国だが、日本だけで残りの約半分、つまり10%程度を製造している。世界の製造業に占める日本のシェアが約5%に過ぎないことを考えると、 これは非常に大きな割合だ。
このため、日本はこの分野のサプライチェーンを巡る脅しの影響を比較的受けずに済んできた。直近では、トランプ米大統領が「解放の日」と呼ぶ昨年4月2日に発表した関税措置をきっかけに米中間で報復合戦が勃発。中国はレアアース輸出を抑えた。
米政府は磁石の確保を巡り交渉を余儀なくされ、先端技術の急所を中国に握られるという屈辱的な結末を迎えた。信越化学工業は7月、同社の磁石工場がフル稼働を続けていると投資家に説明した。
他の市場は、とばっちりを受けた。欧州の自動車部品メーカーでつくる業界団体は6月、欧州メーカーが中国に提出した輸出許可申請のうち、中国当局が対応しているのは約4分の1にとどまると警告した。その結果、中国と直接対立していない欧州企業で生産ラインや工場の停止が相次いだ。
同様の事態はインドでも起きた。TVSモーターのK.N.ラダクリシュナン社長は7月、電動スクーター「iQube」などの車両向け磁石について、現地の在庫を取り崩しながら「日々やりくりしている」と投資家に語った。
中国が今回示したより踏み込んだ対日輸出締め付けは、日本にとって耐え抜くのが一段と難しくなるかもしれない。ここ10年ほど進めてきた多角化にもかかわらず、日本は24年時点でレアアース輸入の約70%を中国に依存しているとエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は指摘する。
オーストラリアのレアアース最大手ライナスには、JOGMECや双日が出資。こうした支援策は、ネオジムやプラセオジムの供給源拡大には成功してきたが、より入手が難しいサマリウムやジスプロシウム、テルビウムでは進展が遅い。
しかし、中国がレアアースを巡りここ数年示してきた動きは、中国側が見込んでいたような買い手の萎縮効果を生んでいない。それどころか、レアアース生産の世界的な復興を促し、中国の優位性を低下させている。
「中国にはレアアースあり」
日本に倣い、レアアース磁石のサプライチェーンで中国の影響を回避する施設が、米国やフランス、韓国、インド、マレーシア、豪州、エストニア、ドイツ、ブラジル、アンゴラと、あらゆる大陸で次々とできている。
レアアース関連施設は複雑で、政府の支援がなければ採算が合わないことも多い。それでも、中国が入手できない最先端の3ナノメートル半導体を量産するために必要なサプライチェーンに比べれば、桁違いに構築しやすい。レアアースは中国が期待するほど、地政学の手札として強力ではない。
カナダのネオ・パフォーマンス・マテリアルズは、エストニアでレアアース磁石工場をわずか500日で建設し、昨年9月にオープンさせた。今年中に商業販売を始める予定だ。
ベルギーのソルベイは昨年4月、フランスの拠点で比較的豊富なネオジムとプラセオジムの生産ラインを立ち上げた後、すでにサマリウムを生産しており、最も価値の高いジスプロシウムとテルビウムの生産も今年開始する。
この1年、神経質なアナリストの間では、中国共産党が描いた長期的なマスタープランの証左として、1970年代後半に改革・開放路線を敷いた鄧小平氏が発した「中東に石油あり、中国にはレアアースあり」という言葉が引き合いに出されてきた。
だが、中国にとってより的確かつ有用な指針は、鄧氏が唱えた「韜光養晦(とうこうようかい)」、つまり、才能を隠して力を内に蓄える必要があるというスローガンかもしれない。
重要鉱物に対する支配力をこれほど露骨に誇示したために、中国は世界各地で競合施設の出現を招いてしまった。長期的には、かえって中国の立場を弱めることになるだろう。
(デービッド・フィックリング氏は気候変動とエネルギーを担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ブルームバーグ・ニュースやウォールストリート・ジャーナル、フィナンシャル・タイムズでの記者経験があります。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:China Overplays Its Hand on Rare Earths: David Fickling(抜粋)
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