暗号資産(仮想通貨)交換事業の米コインベース・グローバルを創業したフレッド・アーサム氏が、「脳」の健康に関連するビジネスに乗り出した。

シリコンバレーの億万長者によるこの新たな挑戦には、イーロン・マスク氏が率いる脳インプラント開発会社のニューラリンクで働いていた少なくとも8人が参加している。

マスク氏の企業が脳内にチップを埋め込むのに対し、アーサム氏(37)のスタートアップ、ナッジは超音波技術を活用し、一般的な消費者を対象としたヘッドセット型製品の開発を目指す。ボタン一つで脳の病気を治療し、気分を改善させ、睡眠を手助けする構想だ。

フレッド・アーサム氏

この技術の実現可能性や科学的根拠を巡っては専門家の間で疑問の声も上がっているが、仮想通貨セクターでのアーサム氏の実績と潤沢な資金力により、成功する可能性もあるとして注目されている。

脳関連テクノロジー企業に資金を投じてきたインターフェース・ファンドのマネジングパートナー、ジュリア・プラカポビッチ氏はアーサム氏について、「消費者市場の理解という点で、恐らく最も優れた人物の一人だ」とみている。同ファンドはナッジには投資していない。

最前線

アーサム氏はニューラリンクのプロダクト責任者だったジェレミー・バレンホルツ氏を共同創業者に迎え、少なくとも20人のチームを編成。サンフランシスコのルーリー市長が研究所を訪れたほか、ナッジの社員らは研究のため地元で慢性的な痛みに苦しむ患者を募っている。

ナッジが採用するのは低強度集束超音波(LIFU)と呼ばれる技術で、特定の脳領域にエネルギーを送り、組織を刺激して疾患の治療を図る。頭部の外側から照射可能で、外科手術を必要としない点が魅力だ。

ウェストバージニア大学神経科学研究所を率いる脳神経外科医アリ・レザイ氏は昨年、アーサム氏と話しているが、「この分野ではまだ多くの研究が必要だ」と言う。

富裕層が科学の最前線に投資するのは目新しくはないが、ここ数年は特に脳に注目が集まっている。

アマゾン・ドット・コム創業者ジェフ・ベゾス氏やマイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏、元グーグルCEOのエリック・シュミット氏、ヘッジファンド大手シタデル創業者のケン・グリフィン氏らも、脳関連のスタートアップに投資している。

アーサム氏が資金面でどのようにナッジを支えているのかは不明で、外部からの出資を受けているかどうかも明らかではない。同社は昨年法人化され、今年4月にビジョンを説明するブログ記事を公開した。

ブルームバーグ・ビリオネア指数によれば、アーサム氏の資産は最低でも32億ドル(約4600億円)。これはコインベースおよび仮想通貨ベンチャー、パラダイムの保有株を基にした推計で、公表されていない仮想通貨の持ち分は含まれていない。

ナッジは数回のコメント要請に応じず、アーサム氏を含め同社の共同創業者らへの接触も試みたが返答はなかった。

原題:Crypto Billionaire Hires Neuralink Employees for Brain Startup(抜粋)

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