トランプ米政権は、中東の産油国サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)に対する人工知能(AI)政策を方向転換した。

サウジとUAEは、AIアプリケーションやサービスの開発・運用向けで最先端と考えられる半導体について、米エヌビディアとアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)から購入する道が開かれる。

米政府はこれまで、自国のAI技術の拡散防止を目指す幅広い規制の一環として、中東への先端技術提供に制限を設ける方針だった。国家安全保障上の懸念や、米国の技術が中国の手に渡ることを防ぐ狙いがあった。

トランプ政権が解除した規制とは何か

米商務省は13日、バイデン前政権が導入した「AI拡散ルール」を撤回すると発表した。AI半導体の輸出先となる国・地域をティア1からティア3までの三つのカテゴリーに分類する規制が15日に発効する予定だった。事情に詳しい関係者によると、トランプ政権は、新たな独自のアプローチを策定中であり、今後は各国・地域との個別交渉に軸足を移す可能性がある。

中国の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)が開発したAI半導体「Ascend(アセンド)」を使用すれば、「世界のどこでも」米国の輸出管理規則に違反するとの指針も同時に公表された。中国のAIモデルの学習・推論に米国のAI半導体が利用されるリスクについても警告した。

サウジとUAEで何が起きているか

サウジの政府系投資会社は、AIインフラ推進の先導役として「ヒューメイン(Humain)」という企業を設立した。トランプ米大統領の中東訪問中に発表された契約に基づき、ヒューメインは今後5年でエヌビディアの最先端プロセッサーを「数十万単位」で受け取る。「GB300 グレースブラックウェル」1万8000個と、高速ネットワーク接続技術「インフィニバンド」の導入が第1弾となる。

この技術の輸出を承認したとトランプ政権は正式に公表していないが、大統領は契約発表に積極的に関与した。アマゾン・ドット・コムはヒューメインと共にサウジの「AIゾーン」に50億ドル(約7300億円)を投資する。シスコシステムズもヒューメインやアブダビに拠点を置くAI企業G42と提携関係にある。

UAEに対しては、エヌビディア製の半導体100万単位以上の輸入を認めることをトランプ政権が検討していると関係者が明らかにした。2027年までの間に最先端半導体を毎年50万単位で輸入できるようになるという。

何が今回の規制緩和を促したか

米商務省は声明で、バイデン前政権の規制が実施されれば、「数十カ国をティア2のステータスに格下げし、それらの国々との外交関係を損なう恐れがあった」と説明した。

エヌビディアなどの企業は、輸出制限に反対する強力なロビー活動をワシントンで展開した。米国製半導体製品へのアクセスを制限することにより、ファーウェイなどのライバル企業が、限定的ではあるものの性能が向上している代替製品を売り込む余地が生じたと主張。米企業の収入が圧迫されるだけでなく、技術的優位の維持も妨げると懸念を示した。

規制緩和に異論はないか

米下院・中国特別委員会のモーレナー委員長(共和)は、ファーウェイなど中国企業とG42とのつながりを指摘し、警鐘を鳴らしてきた。「さらに合意が進む前に安全策を講じる必要がある」とX(旧ツイッター)に投稿した。

原題:Why US Is Giving Gulf States Access to Advanced Chips: QuickTake(抜粋)

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