想いは同じでも、告白できない

円安ドル高の是正は、実は、日米双方の思いです。貿易赤字削減や製造業の復活を掲げるトランプ政権にとって、高過ぎるドルは是正されるべきで、とりわけ他の通貨に比べて弱さが突出している対円レートの修正は、優先順位の高い政策に思います。

しかし、派手で不透明な関税政策によって、トリプル安など「アメリカ売り」のリスクが高まっている時に、ドル安誘導を宣言するのはあまりに危険です。

一方、日本にとっては、国内の物価高を緩やかにし、実質賃金をプラス化するためにも、円安是正は不可欠です。ただ、こちらも急激な円高は、輸出企業のマインドを悪化させ、円安是正の切り札である、日銀による利上げ=金融の正常化を難しくしてしまうので、文字通り円高への修正が望まれるのです。

その意味では、日米双方の是正願望を市場がくみ取り、引き続き、緩やかに為替調整が進むことが、当面、ベストのシナリオなのでしょう。「想い」は同じでも、「告白」のタイミングではないのです。

『第2のプラザ合意』は夢物語

急激な変動へのリスクと共に、新たな合意へのハードルが高いことも事実です。トランプ再選以来、為替調整に向けた『第2のプラザ合意』や、新たな『マールアラーゴ合意』などと囃し立てる向きがありました。しかし、そうした「大がかりな合意など無理」というのが大方の専門家の見立てです。

そもそも1985年のプラザ合意当時と比べて、為替の取引量は飛躍的に大きくなり、介入効果が限られています。世界経済に占めるG7の比重も格段に小さくなりました。何より為替調整の前提であるマクロ政策協調が実現していません。関税戦争に代表されるようにG7が協調どころか、対立している現状では、大掛かりな為替調整の枠組みなどできるはずもありません。