【要旨】
・米トランプ政権は、貿易赤字の解消と国内製造業の復活を目的とする相互関税を導入した。特に、中国との間では報復関税の応酬が激化しており、世界経済や国際金融市場は混乱している。しかし、米トランプ政権はインドに対する相互関税の税率を他のアジア新興国などを比べて低めに設定している。
・こうした米国のインドへの「優遇」とも取れる姿勢は、将来的なインド経済の成長性への期待に加え、米印間の戦略的な関係深化が影響しているとみられる。インドは米国産原油・天然ガスや防衛装備品の輸入拡大のほか、戦略鉱物のサプライチェーン構築などで協議を進めており、関係強化に向けた兆しがうかがえる。
・インド経済は構造面で外需依存度が低く、トランプ関税によるマクロ的な影響は限定的と試算される。他方、追加関税が課されている自動車や鉄鋼製品、アルミ製品といった特定産業にはミクロ的な悪影響が懸念される。また、インドは関税のみならず、非関税障壁も高く、米国との交渉では争点となる見通しとなっている。
・モディ政権は国内産業を優先して保護政策を維持したが、低生産性や制度面での問題が製造業の発展を阻んできた。よって、関税率の相対的な低さが生産拠点の誘致に繋がるかは不透明である。米国との交渉如何では、関税引き下げや補助金政策の見直しにより、経常赤字や産業競争力が低下する可能性もある。
・インドがトランプ関税という「外圧」をきっかけに構造改革を進めるとともに、製造業の競争力を高められるかが、将来的なインド経済の成長性に繋がるほか、金融市場が抱く期待を実現するカギになるであろう。