トランプ米政権が5日までに公表した新たな国家安全保障戦略(NSS)は、伝統的な敵対国と同様に同盟国にも批判の矛先を向けるという従来とは異なる外交政策を明文化したものだが、内政や文化戦争の問題を強く押し出す内向きの内容にもなっている。

従来のNSSとは異なり、今回の文書は移民の脅威や米経済の再工業化の必要性に関する政権の見解を強調した。

新たなNSSは「米エリート層」を非難するとともに、「米国の精神的・文化的健全性の回復と再活性化」を求めた。また、英語圏主要国を指す「アングロスフィア」といった用語を使用し、「健全な子供を育てる強固で伝統的な家庭の拡大」も呼びかけている。

今回のNSSは米国土防衛を重視する一方、焦点は中国やロシアといった国家レベルの対抗国ではなく、管理されない移民や国際犯罪組織に置かれている。また、国際機関についても「あからさまな反米主義に動かされている」などと警告した。

こうした項目は、第2次トランプ政権による従来の枠を壊す外交方針を最も詳細に示したものだ。民主主義を支援するといった米国の伝統的優先事項からは距離を置き、代わりに欧州の文化が衰退していると批判した。

影響力行使

NSS文書には「米国が望むものを得るために利用可能な手段は何か」というセクションもあり、広大な米消費市場へのアクセスを求める国々に対し「影響力」を行使するべきだと主張している。

ブルッキングス研究所で防衛・戦略チェアを務めるマイケル・オハンロン氏は、今回のNSSについて、政権内でどの支持基盤が最も影響力を持つかを理解する上で有益な資料になると分析した。

「これは、トランプ政権が海外の関係者に圧力をかけるとともに、国内の支持層に語りかけ、将来当選させたい友好的な政治家の選挙キャンペーンに備えるための取り組みでもある」とし、この文書は驚くべきものではないと指摘。

「この政権から情緒的で、同盟国寄りの報告書が出てくるとは誰も期待していなかった。トランプ大統領がトランプ氏らしくない態度を取るとは誰も思っていなかった」とオハンロン氏は話す。

第1次トランプ政権時代の2017年のNSSは2倍以上の分量があり、欧州にも比較的好意的だったが、簡潔な25年版は欧州の経済的影響力の低下や過度な規制を批判している。

一方、プーチン大統領を称賛してきたトランプ氏の姿勢を反映し、NSSはロシアを米国に対する主要な潜在的脅威としてではなく、西側が安定を回復すべき大国として扱っている。中国についても、従来は悪意ある強力な地政学的ライバルと見なされてきたが、現在では存続に関わる脅威というよりも、長年にわたる米政策の失敗の帰結として描かれている。

NSSはまた、西半球への米軍資産の再配置も呼びかけた。地理的優先地域として欧州や中東よりも先に挙げられ、安保上の重要性がここ数十年、または数年で相対的に低下した地域から移すべきだとしている。

ブルームバーグ・エコノミクスのシニア地経学アナリスト、アダム・ファラー氏はこの戦略について、「国内の優先事項を推進することを明確に目的とした取引的な外交政策」として、トランプ氏の世界観を忠実に反映したものだと指摘する。

「優先順位の面で中国とより広範なインド太平洋地域を西半球より下位に位置付けているように見え、さらに欧州ではイデオロギーに沿った形での政治的介入を強めるという、語調と意図の両面で明確な転換を示している」と述べた。

原題:Trump’s National Security Strategy Veers Inward in Telling Shift(抜粋)

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--取材協力:Anthony Capaccio、Andrea Palasciano.

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