拡大するアクティブシニア市場
日本は世界でも有数の長寿国であり、2024年時点で65歳以上の人口は3,625万人と、総人口の約29%を占めるに至った。
少子化と人口減少が進む一方で、高齢者人口は今後も増加傾向にあり、2040年には約3,928万人、全体の35%を占めると推計されている。
このうち比較的健康で自立した「アクティブシニア」層は、従来の「支えられる高齢者」というイメージを覆し、積極的な消費者として注目を集めている。
日本のアクティブシニア市場の拡大は、高齢者の増加と健康度の向上が背景となっている。高齢者の健康度の向上について、体力テストの点数は伸長しており65~79歳の人々がこの20年間体力の面では「5歳程度若返っている」と言える。
このような背景のもと、健康で社会参加にも積極的なアクティブシニアは、単に医療や介護を必要とする存在ではなく、自らの趣味や学び、旅行、健康づくりに前向きな消費者として市場に大きな影響を及ぼしている。
人口減少下でも増え続けるシニア層は、今後の日本経済における貴重な消費主体であり、存在感を増していくことが想定される。
アクティブシニアの消費行動の特徴
退職世代は現役を引退した後、将来の生活費や健康への不安から支出を控える生活防衛的な傾向が見られる一方で、自由に使える時間が増えることで、自分や家族の充実を目指す積極的な消費行動も見られる。
具体的には、アクティブシニアに人気がある消費分野として、「健康」「旅行」「孫支援」「終活(生前整理や遺品整理など)」が挙げられる。
特に旅行については、ADKの調査で60代・70代の約4割が「1泊以上の国内旅行を趣味としている」と回答しており、興味の高さが伺える。
また、食べ歩きやスポーツジムなど外出を伴うアクティブな趣味にお金をかける層も多く、健康志向と結びついた行動が目立つ。
加えて、新しい商品やサービスに対する意欲も高い傾向が示されている。リクシスとヴァリューズの共同調査によると、65歳以上の88%が「新しい商品やサービスに興味を持つ」と回答し、特に健康を支える商品に関心を示す傾向が強いことがわかっている。
なかでも、自分の身体に衰えを感じ始める「プレフレイル期」の人々が、積極的に情報を収集し、購入意欲が高い傾向がある。
また、退職世代の生活にはインターネットの浸透も大きな変化をもたらしている。総務省の調査によると、60歳から69歳のインターネット利用率は64.1%に達した。
さらにネットショッピングの利用率も着実に増加している。2020年から2024年までの5年間で、65歳~74歳の世帯で34.1%から46.6%へ、75歳以上では20.4%から27.4%へと伸びている。
ただし、ネット上での「情報収集(検索、閲覧)」には積極的である一方で、予約や決済などのやや複雑な操作については敬遠する傾向も見られる。
このため、アクティブシニア向けのデジタルマーケティングでは「操作が簡単でわかりやすい」UI/UX設計が不可欠だ。
また、アクティブシニア層は紙媒体への親しみも強く、新聞の購読率は60代で68.2%と依然として高い水準にある。つまりデジタルと紙媒体を組み合わせたハイブリッドな情報発信が、今後ますます求められるといえる。
さらに、どの情報を信頼するかについても特徴がある。アスマークの調査によれば、シニア層は「公式アカウント」に加えて、「家族・友人の口コミ」や「一般ユーザーのレビュー」など第三者的な裏付けのある情報を信頼する傾向が高い。
シニア向けマーケティングでは、専門家や芸能人の推薦、具体的な数字、受賞歴、他の利用者の評価など「権威づけ」の要素を加えることで、より強い信頼を勝ち得ることができると考えられる。
企業のシニア市場の開拓、シニアの消費活性化にはこうした特徴をふまえた商品・サービスの提供が求められる。
アクティブシニア市場拡大の社会的・経済的インパクト
退職世代が積極的にお金を使い、新しいサービスや商品に関心を寄せることは、経済にとって大きな追い風となる。たとえば旅行業界やレジャー産業、健康関連など、アクティブシニアの関心が高い分野が注目される。
また、孫世代への支援消費も増加傾向にあり、教育費の補助や一緒に旅行へ行くといった形で、次世代に資金を回す役割を担っている。
また、近年ではインターネットやネットショッピングなどを使い慣れた人々が退職を迎えていることで、シニア層でもこれらを利用する人が増えている。
こうしたことから従来のシニアとは消費行動が様変わりしつつあることをふまえた商品・サービスの提供が求められている。
日本全体としての消費を維持する観点でシニア世代の存在は大きい。その活動的な購買行動をいかに支援していくかが、経済の活性化の鍵を握ると言えるだろう。
※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任 原田 哲志
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