トランプ政権内のパワーシフトが始まった
これまで政権の通商政策では、強硬派のナバロ上級顧問が一律関税を主張するなど、その主導権を握ってきました。ビジネス派のベッセント氏らが、これを抑えようと折衷案を模索する展開が続き、綱引きの結果として、一律と上乗せを併用する「相互関税」や、「相互関税」と「品目別関税」が並び立つといった形になったと言われます。
しかし、今回の市場の「本気の懸念」を受けて、今後はベッセント財務長官が交渉の取りまとめ役を担うことになりました。通商交渉の取りまとめ役を財務長官が担うと言ったことは聞いたことがなく、政権内のパワーバランスが潮目を迎えたことを示しています。
ベッセント氏は為替に関心
関税をめぐる日米交渉は、自動車から防衛費まで幅広い範囲に及ぶとみられますが、ベッセント財務長官は、ドル高円安の是正にも関心を示しています。そもそもトランプ大統領は、貿易赤字の要因として、他国の通貨安を批判してきただけに、行き過ぎた円安是正に向けた取り組みで何らかの合意ができる可能性があるでしょう。
円安是正は、想定以上の物価高に苦しむ日本にとっても、いわば「渡りに船」です。3%以上の物価上昇を緩和し、実質賃金をプラス領域に安定させることは、経済運営の目標でもあり、その意味では大きなチャンスです。
アラスカ産LNGも焦点
ベッセント財務長官は8日、アラスカの液化天然ガス(LNG)の輸出事業に日本や韓国、台湾が資金拠出することに強い期待感を示しました。これも主要なテーマです。
日本にとって、アラスカからのLNG調達は、エネルギー安保に資するだけでなく、米大陸東部や南部より距離的にも近いという利点があります。その一方、アラスカ北部のガス田から、永久凍土に千数百キロに及ぶパイプラインを敷設するコストは大きく、日本側の関係者からは「とても採算に合わない」との声も聞かれます。日本だけでなくアメリカや第3国が、どのようなスキームなら取り組むことが可能なのかを慎重に探ってチャンスに変える努力が欠かせません。