こづかい減少の背景~経済不安、キャッシュレスやサブスクなど消費のデジタル化の影響も
なぜ、「こづかい」は大幅に減少しているのだろうか。
まず、同レポートでも指摘されているように、物価高や老後不安など経済的な不安から消費を抑制していることがあげられる(この期間には「老後資金2千万円問題」も話題となった)。足元では賃上げ傾向にあるが、長年にわたり日本では賃金が上昇してこなかった。そのため、給付金や減税施策等で一時的に所得が増えたとしても、恒常的な所得増加の見通しが立たない限り、消費よりも貯蓄を優先する傾向が強まることは自然な流れである。
とはいえ、7割という大幅な減少が経済不安だけで説明できるのだろうか。
これには消費のデジタル化の進展や、消費社会・価値観の変化(シェアリング市場や中古品市場の拡大など)も影響を与えていると考えられる。
前述の通り、「こづかい」の減少には「被服及び履物」の支出減が比較的大きく関係している。
これには、2000年代以降のファストファッションの台頭に加え、フリマアプリやリサイクル品などの中古市場の拡大が大きな影響を与えているだろう。
安価で良質な商品が手に入る環境が整い、不要になった衣類をフリマアプリなどで売却できるため、実質的に「被服及び履物」の支出は減少している。
なお、フリマアプリ大手のメルカリの調査によれば、若年層ほどファッションアイテムを「売って」整理する傾向があり、年齢が高いほど「捨てて」整理する傾向が強い。
また消費のデジタル化という観点では、キャッシュレス決済サービスや家計簿アプリの普及により、家計管理を細かくできるようになったことで、そもそも「使途不明金」と計上される支出自体が減少した可能性も指摘できる。
さらに別の側面として、娯楽分野を中心にサブスクリプションサービスの利用が広がったこともあげられる。
かつては「こづかい」から個人が出費していた支出が、世帯全体の出費に組み込まれるケースが増えているのではないだろうか。
例えば、以前は映画観賞やCDの購入に「こづかい」を充てていたが、現在では動画配信サービスやゲーム、音楽、電子書籍などのサブスクリプションサービスを家庭単位で契約し、各家族が共有して利用することが一般的になっている。
具体的にはNetflix、Apple Music、Spotify、GAME PASSなどがその代表例と言える。
そのほか、単身世帯や共働き世帯などの増加によって、従来の「こづかい」制を採用する家庭が減少している可能性もあげられる。
特に共働き世帯では、高収入であるほど夫婦それぞれが収入を個別に管理し、必要な出費を分担する傾向が強い。
こづかいを増やすには?~賃上げ期待もあるが、副業や不要品循環、投資など個人の工夫が重要
「こづかいが7割減少」と聞くと驚くかもしれないが、近年の消費社会の変化やデジタル化の影響を考慮すると、納得した人も多いのではないだろうか。
一方で、懸念されるのは、先のレポートでも指摘されている通り、所得の伸びに対して消費が伸びていない点である。
個人消費はGDPの過半を占めるため、その改善は日本経済の今後にとって極めて重要だ。
今年の春闘では高水準の賃上げが見込まれており、今年後半には、いよいよ物価の上昇率を上回る形で賃金が上がり、消費の回復が期待されている。
このままでも2025年は緩やかに消費が改善する可能性が高いと考えられるが、賃上げ動向に依存する形では、個人の消費生活は受動的になってしまう。
一人ひとりの消費者が積極的に取れる行動としては、シェアリング・エコノミーが広がる中では自分のスキルを活かして副業で収入を得ることや、フリマアプリなどを活用して不要なものを循環させることがあげられる。
また、市場の不安定はあるものの、長期的には投資も有効な手段だ。
今の時代、個人の可処分所得を増やす方法は多様化している。新たな年度を迎えるにあたり、あらためて家計を見直してみてはいかがだろうか。
(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 上席研究員 久我尚子)