(ブルームバーグ):4月2日に米国の新関税がどのような内容で、どのように発表されるのか。トランプ政権が発信するメッセージが一貫せず、長年例を見ない大きなリスクに身構える株式トレーダーは、いら立ちを募らせている。
「今のトレーディング環境を表現するなら、イライラとぐったり感、この2語に尽きる」と話すのは、インテグリティー・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ジョー・ギルバート氏だ。「この先どうすれば良いのか教えてくれる具体的な教科書は存在しない」と述べた。
31日の米株式相場は大きく揺れる展開。S&P500種株価指数は一時約1.7%下げた後、午後には下げを埋めて小幅高となった。
困惑が広がるウォール街では多くのトレーダーがポジションを整理し、リスク資産を売ってリセッション(景気後退)に強いとされる比較的安全なセクターに買いを入れるか、あるいは株式からの脱出を図っている。
「われわれのマインドはいくら稼げるかという強欲から、いくら損するかという不安に一変した。トレーダーの気持ちに変化が生じたのは間違いない」とデカーリー・トレーディングの創業者、カーリー・ガーナー氏は語る。「当社のクライアントはまだパニックに陥っていないが、向こう数週間に株価が反発した後でまた崩れ、安値を更新するような状況になれば、パニックが起きるだろう」と述べた。
トランプ氏が当選した当時、投資家は同氏がトレーディングについて言葉を発することを期待していた。しかし大統領1期目と異なり、第2次トランプ政権の同氏はマーケットを見てもいないと述べ、米経済が急降下しようが短期的な痛みに動じる様子もない。
資産運用最大手、米ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)は投資家に宛てた年次書簡で「話をする機会のあったクライアントやリーダーを含め、ほとんどの人から聞かされるのは、経済に対する不安が近年記憶にないレベルだという声だ」と指摘。その理由は分かっていると続けた上で「しかしこのような局面は過去にも経験済みだ。そして長い目で見れば、われわれはそうした局面を何とか切り抜けてきた」と述べた。
目の前のメルトダウン
それでも目の前のメルトダウンを避ける方法はなく、あまりにもダウンサイドが大きいために、トレーダーの多くはリスクから距離を置いている。
「見るからにトレーダーらはもう疲れ果てている。リスク志向のメンタルをなお追い詰めているのは、この不確実性がリスクとは非常に異なり、価格に織り込めないということだ」とバファロー・バイユー・コモディティーズのマクロ取引責任者フランク・モンカム氏は説明。「誰かに殴られると分かっていれば、身構えてパンチに備えるものだ。しかし今起きているのは、何が飛んでくるのか誰も本当に分かっていない現象だ」と述べた。
状況をさらに困難にしているのは、トランプ大統領の通商政策が最終的に米国に利益をもたらすと考えたとしても、その前にまず事態が悪化する確率がかなり高いことだ。確かに4月2日の戦略発表で、不確実性はある程度解消される。しかしこの関税は米経済にダメージを与え、不安定な時期に消費者物価を押し上げる可能性が非常に高い。
「トランプ氏の言う解放の日は、トレーダーや最高経営責任者(CEO)らには判決の日のように感じられるだろう。関税がどの程度厳しいのか、決定を聞かされる日だ」と、フランクリン・テンプルトン・インベストメント・ソリューションズの副最高投資責任者(CIO)、マックス・ゴクマン氏は語った。
それでも長期的な利益を期待する投資家もいる。関税による税収増が財政赤字を埋め、一連の減税の財源となり、米製造業の本国回帰を促すという期待だ。この期待に賭けるのなら、離陸の瞬間まで諦めたくはないだろう。
インテグリティーのギルバート氏は「こうした見方のかなりの部分が実現すると、今も待っているクライアントは驚くほど多い」と語る。「わずかながらの楽観は残されている。しかし残念なことに、そうした良い展開が起きるまでにどれだけのダメージが及ぶのか正確には分からない」と述べた。
ウォール街の一角では、4月2日に「トランプ・プット」が入ると期待する声もある。大統領が勝利を示唆し、株式市場にのしかかるプレッシャーをいくらか軽減するとの期待だ。
ウェイブ・キャピタル・マネジメントのリース・ウィリアムズ氏は「大抵の政治家は自滅行為を望まない」と話す。「今起きているのはそうした動きに見える。トランプ氏が完全に180度転換するとは思わないが、2日が恐れられているよりはましな展開になる可能性はある」と語った。
もちろん関税の影響がはてしない規模に及ぶリスクはある。例えば米企業と消費者への圧迫が続けば、今年下期の企業利益に悪影響を及ぼしかねない。そうなれば株式市場最大のエンジンが脅かされる。さらには昨年まで飛ぶような勢いで上昇してきた大型ハイテク株は、さらに強いプレッシャーにさらされる可能性があると、ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)は分析している。
「米国の大型ハイテク株はバリュエーションが極度に高く、利益率の優位性が今後も続くという前提に立っているため、著しいリスクを抱えていると考えられる」とBIの株式戦略ディレクター、ジーナ・マーティン・アダムズ氏は31日付のリポートで指摘。「短期的に最も直接的な脅威が大きいのは、国外に施設を構え、製品原価が上昇している企業だ。一方で売り上げの多くを国外で稼ぐ企業も無傷では済まされない」と述べた。
こうした銘柄が受ける圧力は、近年起きたこれまでの悪化局面と大きく異なる。当時はハイテク7強で構成する「マグニフィセントセブン」が逃避先と見なされ、周囲で何が起きていようとリターンを上げ、強い業績を残していた。このグループが年初から17%余り下げている現在、押し目買いのチャンスのようにも一見思われるが、実際のリスクはむしろ、落ちてくるナイフをつかもうとしている方にある。
ウェイブ・キャピタルのウィリアムズ氏はトランプ氏による2度目の大統領就任式が行われた1月下旬の上昇局面に触れ、「1月22日に全部売っておけばよかったと今では思うかって?答えはイエスだ」と述べた。
原題:‘Frustration and Fatigue’ Hit Stock Traders in Run-Up to Tariffs(抜粋)
--取材協力:Anya Andrianova.
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