中長期的には現地生産拡大も

高関税が続くのであれば、現地生産の拡大も選択肢です。ただ、現地生産の拡大は、新たな投資やサプライチェーンの変更なども必要で、直ちにできるものではありません。すでに自動車各社は、1980年代からの激しい貿易摩擦の末に、相当な現地化を進めており、それが日本を対米投資額第1位の国に押し上げることにも貢献しました。品質やコストなどを考慮して、最適な生産体制の構築に努めてきたと言って良いでしょう。

また、今年2月の石破総理の訪米に合わせて、いすゞのトラック工場新設など、「出せるタマは全部出した」というのが実情です。

基幹部品も25%関税の対象に

今回のトランプ政権の発表で注目すべきは、完成車だけでなく、エンジン、トランスミッション、パワートレーンといった基幹部品も25%追加関税の対象にするという点です。アメリカで現地生産している車でも基幹部品を日本から輸入して組み込んでいるケースでは、関税分のコストが上がります。

また、北米大陸での自由貿易協定であるUSMCA(旧NAFTA)においても、関税適用があることも、ポイントです。USMCAで現在は関税ゼロが適用されるケースでも、トランプ政権は、今後、アメリカ製の部品の調達度合いを勘案して関税を調整すると明らかにしており、カナダ、メキシコとの完成車や自動車部品のやり取りに大きな影響を与えそうです。日本メーカーにとっても、輸出か現地生産かといった単純な選択ではなく、複雑なサプライチェーンの再構築が迫られることになります。

製造基盤再建めざすトランプ政権

焦点は、トランプ大統領がこの強硬策をどこまで続けるのか、何が得られれば矛を収めるのか、です。トランプ大統領の思考回路を予測することは困難ですが、当のトランプ氏は、この措置を「恒久的だ」として、すぐには取り下げない姿勢をアピールしています。ホワイトハウスのレビット報道官も「大統領は製造基盤の再建の決意を固めている」と、その本気度を強調します。再選されて自信を深めたトランプ氏は、自らの「正しさ」に一層拘っているように見受けられます。

しかし、ホワイトハウスが主張する「アメリカで販売される乗用車の半分が輸入車だ」という現実には、それなりの理由があるはずです。関税を引き上げただけで、アメリカの製造基盤が再建され、米自動車産業の競争力が急回復するはずがないことは、自明です。

価格上昇と需要減退でトランプ・スタグフレーションか

自動車の経済に占める大きさを考えれば、関税というコストによる値上りがアメリカのインフレを加速させることは間違いありません。その一方、価格の上昇が自動車の需要減退を招き、経済の減速を招くことも、容易に想像できます。

文字通り、「トランプ・スタグフレーション」が視野に入って来ました。アメリカ経済の変調は、世界経済に甚大な影響を与えることでしょう。そうなる前に、トランプ政権が、「ポピュリスト」らしく、何か別の方向に舵を切れるかどうかが、分かれ目となりそうです。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)