米国とロシアの30日間の停戦交渉は、なかなか終結へと向かいにくい。とはいえ、今、仮に戦争終結になったときの経済的メリットが何かを考えていく価値はあるだろう。よく言われるのは、ウクライナの復興需要だ。一方、これで世界インフレが終わるかどうかは未確定の部分が多い。
30日間停戦までの長い道のり
トランプ大統領が就任して、アンチビジネスの政策ばかりが目立つ。今後、良いことをしてくれるとすれば、まずウクライナ・ロシア戦争を停戦、そして終結に導くことだろう。まだ前途多難だが、少しずつ30日間停戦に向けて、前進しているように見える。3月18日の米国・ロシア両大統領による電話会談では、原子力発電所などエネルギーインフラ施設への攻撃が手控えられることが表明された。これでは停戦合意への距離感はまだ遠いという見解が多いが、協議が継続されて合意が進むことに期待したい。
おそらく、合意が遠いと感じられると、トランプ大統領はロシアへの制裁強化に踏み込むだろう。原油・天然ガスなどロシアからの輸出を受け入れている輸入国に、強い経済制裁を課す可能性がある。思い浮かぶのは、中国、インド、トルコ、ベラルーシと言った国々である。例えば、中国やインドに対して、米国向けに輸出している品目に、新しい枠として追加関税を課す可能性はある。そうなるとロシアへの経済封鎖を強めて、経済的孤立を深めることになるだろう。
終戦メリット
少し達観した見方に立って、仮にウクライナ侵攻が終戦に至った場合のメリットは何だろうか。株式市場などでよく話題にされるのは、ウクライナの復興需要である。これは人道支援以外に、建設・農業支援も含まれるだろう。戦争で航路・空路を変更した船舶・航空機がウクライナ・ロシア領内を通過できるようになり、物流も大きく動き始める。運輸、商社の業績拡大にも貢献するだろう。トランプ大統領が要求するレアアースなどの鉱山開発には、多くの欧米企業が参画するだろう。株式市場では、鉱山開発への関連銘柄が話題になっているようだ。ウクライナに埋蔵されている資源としては、リチウム、チタン、マンガン、ウラン、ベリリウム、グラファイトなどが挙げられている。こうした資源の供給増加、そして資源価格が下がるという期待感は、希少金属・資源を利用する産業の業績拡大を予想させるだろう。
ここ数か月の欧州株は、ウクライナの終戦期待もあって上昇基調であった時期もある。ウクライナの復興需要が間接的に欧州経済にプラスに働くため、日本から欧州向けの輸出も増える可能性がある。欧州経済が急回復するためには、エネルギー価格の下落が進むのがよいが、この点はまだはっきりしない。
2月28日のウクライナと米国の首脳会談では、ゼレンスキー大統領がトランプ大統領にロシアが約束を履行する保証等を求めて、激しい口論になった。もしも、ロシアの再侵攻を防止しようとするのならば、戦後復興では多くの欧米企業がウクライナに進出して、共同で復興事業を推進し、ロシアの軍事行動が欧米企業の活動に被害を及ぼすことが出来にくい状態をつくり出すのではあるまいか。敢えて復興事業を「人質」のようなかたちにして、ロシアの再侵攻に歯止めをかける。ロシアはウクライナのNATO加盟を是が非でも止めたいだろうが、代替案として欧米企業とウクライナ経済の利害を深めることで、攻撃しにくくするという考え方も成り立つ。
もう1つの焦点は、穀物供給である。小麦の生産に関して、戦争前はロシアが世界1位の生産国で、ウクライナが世界6位の生産国だった。すぐにではないとしても、小麦の生産が増えていくとなれば、その国際商品市況は下がる。逆に、ロシア経済の封じ込めを終戦後も継続すれば、供給増の期待が裏切られる格好になり、インフレ傾向は続くだろう。