トランプ米大統領が連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長に指名したケビン・ウォーシュ氏は、最終的に指名を勝ち取るまで、10年近く待った。しかし、就任後に最初の大きな試練に直面するまで、それほど長く待つ必要はなさそうだ。

FRBの「レジームチェンジ」を約束し、大幅な見直しを行う意向を示して指名争いに勝ったウォーシュ氏は、バランスシートを縮小させる考えを表明してきたほか、人工知能(AI)にけん引される生産性ブームでインフレは低く抑えられると主張してきた。

こうした見通しはトランプ氏を納得させるには十分だったが、今後は他の政策当局者や投資家を説得する必要がある。米金融当局は昨年後半に3回利下げを行った後、根強いインフレや安定化しつつある労働市場、2026年の成長加速への期待を背景に、1月は政策金利の引き下げを見送った。トレーダーは次の利下げについて、早くても6月まで織り込んでいない。

Photographer: Daniel Acker/Bloomberg

トランプ大統領が求める利下げを巡る緊張は、最終的には労働市場の軟化やインフレ鈍化によって解消される可能性がある。そうした環境になれば、ウォーシュ氏は追加利下げを主張し、他の政策当局者の支持を得ることもできるだろう。

一方、こうした条件が整わなければ、約束を果たすのははるかに難しくなると、TSロンバードのエコノミスト、ダリオ・パーキンス氏は指摘する。

「エコノミストにとって最も避けたい事態は、自らの理論を現実で試される立場に置かれることだ」とパーキンス氏は語り、「懸かっているのは彼自身の評判だ。勝者の呪いと言える」と話す。

手厳しいFRB批判

ウォーシュ氏は、次期FRB議長の座を争ったハセット国家経済会議(NEC)委員長ほどトランプ大統領に近い存在とは見られていないが、同氏の見解は、インフレ圧力が続く中でホワイトハウスからの大幅利下げ要求に屈するのではないかとの懸念を呼んでいる。

ウォーシュ氏のFRBに対する手厳しい公での批判やトランプ氏に対する称賛は、ホワイトハウスが利下げの遅さを理由に米金融当局を攻撃していた時期と重なっていた。さらに、FRB本部改修工事の支出超過を巡る前例のない司法省の捜査も、トランプ氏がFRBの刷新を狙っているとの懸念を一段と強めている。

インフレが根強く、債務が急増する局面で金利を大きく引き下げれば、投資家の信認が揺らぎ、債券利回り、ひいては実質借り入れ金利が上昇しかねないと、アナリストらは警告する。

08年の金融危機時にFRB副議長としてウォーシュ氏と共に働いたドナルド・コーン氏は、「彼は自らが望む政策の方向性を支持するため、相当な能力を駆使して証拠と分析を取りまとめる必要があることを理解している」と分析する。当時、ウォーシュ氏はFRB理事を務めていた。

AI主導の生産性向上

最終的に、FRB議長は経済にとって何が正しいかを基準に行動せざるを得ず、議長職を得るために用いられたレトリックは政治的文脈で捉えるべきだと、ベッセント財務長官の下で副長官を務めたマイケル・フォルケンダー氏は話す。

「候補者の段階で何を語ろうとも、FRB議長は自らの責務がインフレを低く抑えることだと分かっている」と同氏は指摘した。

それでも、第2次トランプ政権が昨年1月に発足して以降、ウォーシュ氏は利下げを求めてきた。トランプ大統領によれば、昨年12月に追加利下げを支持するとトランプ氏に改めて伝えたという。

ウォーシュ氏は昨年11月、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)のオピニオン記事で、FRB議長として採用し得るアプローチの一端を詳述。「金融政策と規制政策の抜本改革は、AIの恩恵を全ての米国人にもたらす。経済はより強くなり、生活水準は向上し、インフレはさらに低下する」とした。

一連のコメントは、AI主導の生産性向上がインフレ圧力から経済を守り、力強い成長局面でも米金融当局が利下げを実施できると、ウォーシュ氏が想定していることを示唆している。

長年のタカ派

ウォーシュ氏は06年、当時のブッシュ(子)大統領によってFRB理事に指名された。金融危機のさなかでさえ利上げを主張し、インフレ到来を繰り返し警告したことで知られる。国債購入プログラムを長年批判しており、バーナンキ元FRB議長が景気刺激を目的とした第2弾の国債買い入れに踏み切った後の11年にFRB理事を辞任した。

金融危機の際、ウォーシュ氏はウェルズ・ファーゴへのワコビア売却を仲介し、08年秋には大手銀9行に数十億ドルの資本を供給する計画の立案者でもあった。

ウォーシュ氏の指名は米上院の承認を得る必要があるが、FRBを巡る司法省の捜査を背景に、共和党の有力議員が問題解決までFRBの人事を認めないと表明しており、手続きは複雑化している。

FRB議長に誰が就任したとしても、政策を主導する力には限界がある。政策金利は連邦公開市場委員会(FOMC)の過半数でしか決められず、議長の票は1票に過ぎない。広く尊敬を集めるパウエル氏でさえ、昨年12月には3会合連続の利下げに向けて幅広い支持を探るのに苦労した。

改革論

FRB改革が本当に制度改善を目的とするのか、それとも金利への支配力を高めるための口実なのかは別問題だ。トランプ大統領は、自身の経済観を共有する人物らが理事会の過半数を占めることを望んでいると述べている。

それは、ホワイトハウスが他にどのような変更を求める可能性があるのかという疑問を投げ掛けている。ベッセント財務長官は、米金融当局にバランスシート運用の抑制を提案し、最近では12の地区連銀を率いる資格要件の変更を提起した。トランプ政権のこれまでの経緯を踏まえれば、大規模な人員削減が含まれる可能性もある。

ベッセント長官が本格的な刷新を追求する場合、その過程でFRB議長は極めて重要な役割を果たすと、著書「The Myth of Independence: How Congress Governs the Federal Reserve」を共同執筆したマーク・スピンデル氏は指摘する。

「FRB議長は理事会のスタッフ配置や、どの研究課題が問われ、答えられるかについて大きな影響力を持つ」とスピンデルは語り、「理事会の過半数は制度全体に対して大きな支配力を持つ。望むなら、特定の地区連銀総裁の交代を事実上仕組むことも可能だ」と述べた。

原題:Warsh Set to Face Early Reality Check as Trump’s Man at the Fed(抜粋)

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