【気候変動問題の課題では、保険業界が気づいているものと気づいていないものがある】

人々が生活の中で抱えるリスクは、短期や中期のものが多い。例えば、目先のインフレの動向、病気やケガにより就業不能となる恐れなどだ。これに対して、気候変動問題では、今世紀末までや来世紀以降までをも含む、長期的なリスク対応が必要とされることが一般的だ。気候変動の科学者は、今世紀末や来世紀中頃までといった長い時間軸で気候シナリオを設定して、温暖化の影響や、適応策・緩和策の有効性などを検討している。

保険業界も、気候変動に関するさまざまな長期のリスクを検討している。ただし、遠い将来におけるリスク発現の可能性や、発現した場合の影響度の予測は、大きな不確実性を伴う。レポートでは、保険会社が気づいている課題と、気づいていないかもしれない課題に分けて、議論が紹介されている。

(1) 保険業界が気づいている気候変動に起因する課題
保険会社は、異常気象が発生する確率をよく理解し、今年の保険料の設定に使用した大災害モデルは来年や再来年に有効であるかどうか、といった点の検討を進めている。その際、保険料率が過去の長期平均を反映していて、将来の見通しにはあまり役立たないかもしれないことを危惧している。

(2) 保険業界が気づいていないかもしれない課題
気候変動問題に関するリスクには、適切な保険手段が存在せず、それを提供する組織も存在しないという利用可能性についての根本的な懸念がある。その最たる例が洪水であり、アメリカでは、基本的に民間保険だけではカバーされていない。アメリカでは、保険会社や気候変動を懸念する人々の大半は、最大の経済的損失として洪水を挙げている。ただし、人々の間のリスクの認識は一様ではない。今日の気候変動の中で、保険の価格設定や提供にどのように対処するかという問題を解決しようとする保険業界で働く人々と、実際に極端な現象によって被害や大きな影響を受けている住民との間にはある種の断絶が存在しているとされる。

保険業界が抱えているもう一つの課題は、将来どれだけ気候変動問題が悪化するかを完全には把握できないことである。保険会社は気象災害について、大規模災害モデルを構築して予測を行うことが一般的だ。そのモデルの中に、適切な気候変動の要素が組み込まれていない場合、そのことが重大な未知の問題となる恐れがある。