(ブルームバーグ):法定通貨やコモディティーなどと連動するよう設計されたステーブルコインのうち、「テザー(USDT)」の発行元で、最大手のテザー・ホールディングスの利益が膨らむ状況にあって、最近まで羨望(せんぼう)のまなざしで傍観してきた銀行が今や参入を望んでいる。
フランスの大手銀行ソシエテ・ジェネラルの暗号資産(仮想通貨)部門SGフォージは今年、ユーロ建てのステーブルコインを小口投資家が利用できるようにした。金融グループのODDO・BHF・SCAもユーロ建てステーブルコイン発行に取り組んでおり、ロンドンを拠点とするレボルトも独自バージョンの発行を検討している。また、ドイツ銀行傘下のDWSが参加するベンチャー企業オールユニティーも来年発行を予定しており、BBVAも参入に向けた作業を進めている。
米国では、銀行がステーブルコインを発行する道を開く可能性のある法律が制定されれば、銀行もこの流れに急激に加わることが予想される。欧州では、欧州連合(EU)域内共通の規制パッケージ「暗号資産市場規則(MiCA)」で規制の枠組みが明確となるとともに、テザーがユーロステーブルコイン「EURT」の廃止を決定したことで、顧客が決済を行ったり、不換紙幣のような代替通貨を保有したりできるようにしたいと考えている競合他社に参入機会ができた。
SGフォージのジャンマルク・ステンガー最高経営責任者(CEO)はインタビューで、「他の銀行も独自のステーブルコインを発行すると考えられるかと問えば、答えはイエスだ。困難な仕事であり、すぐに動きがあるか確信はないが、そうした動きはあるだろう」と語った。
一方、決済処理ネットワークを運営する米ビザは10月、銀行がステーブルコインを発行するためのトークン化ネットワークを立ち上げ、BBVAと共同で2025年に試験運用を開始する。他にも多くの銀行と交渉中だ。
ステーブルコインを提供するインセンティブは多い。複数の銀行は顧客がそれを求めていると報告している。利益動機もある。テザーのパオロ・アルドイノCEOは先に、24年通期の純利益が100億ドル(約1兆5800億円)余りに上るとの見通しを示した。
ただ、全ての銀行が従来型金融機関によるステーブルコイン発行の考えを受け入れているわけではない。銀行にとって、ステーブルコイン発行のリスクはまだ山積みとなっている。 欧州中央銀行(ECB)の分析によれば、リテール預金をステーブルコイン発行者の預金に転換した場合、銀行の流動性カバレッジ比率が低下する恐れがある。
また、米国の規制当局は、銀行がどのような準備金をステーブルコインの裏付けとして使用することが許容されるのか、ステーブルコイン預金が保険のカバー対象になるのかどうかを明確にする必要がある。
アメリカン大学のヒラリー・アレン法学教授は、「銀行が保険カバー対象の預金と一緒に対象外のステーブルコインを発行すれば、何が保険でカバーされ何が保険外なのか、消費者に大きな混乱が生じるだろう」と指摘。「危機の際に銀行が発行したステーブルコインが保護されていないと消費者が告げられたら、パニックが生じるだろう」と語った。
原題:Banks Want In on Tether’s Billions in Stablecoin Profits(抜粋)
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