ジミー・カーター元米大統領が29日死去した。100歳だった。イスラエルとエジプトの歴史的な平和条約を仲介したカーター氏は在任中、物価高騰や石油危機、イランの米大使館占拠・人質事件などの対応に追われ、政権は1期(1977-81年)で幕を閉じた。

非営利団体(NPO)カーター・センターは声明で、元大統領がジョージア州プレーンズの自宅で家族に見守られ、同日亡くなったと発表した。同州アトランタと首都ワシントンで一般の参列が予定され、その後プレーンズで埋葬される。

2002年には「国際紛争に対する平和的解決の発見および民主主義と人権の向上、経済的・社会的発展の促進のために数十年にわたりたゆまぬ努力」を尽くしたとして、ノーベル平和賞を受賞した。

バイデン大統領は29日の声明で、ワシントンでカーター氏の国葬を営むよう指示すると表明した。バイデン氏はカーター氏について「並外れた指導者、政治家、人道主義者 」であり、「彼の思いやりと道徳的明晰(めいせき)さ 」によって世界中の人々の人生に影響を与えたと称賛した。

ホワイトハウスは具体的な予定を発表していないが、元大統領の国葬では通常、連邦議会議事堂にひつぎが安置され、ワシントン大聖堂で葬儀が執り行われる。バイデン氏は来年1月9日を服喪の日に指定すると発表した。米株式市場は伝統的に大統領国葬の日は休場となる。今のところ取引所の発表はない。

今年の大統領選でバイデン氏を批判するのに当たってカーター政権当時に言及することが多かったトランプ次期大統領は自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に、カーター氏は米国史上極めて重要な時期に困難に直面したと投稿。「全ての米国民の生活を向上させるために力を尽くした」とし、「このためわれわれは皆、彼に感謝しなければならない」とコメントした。

米大統領経験者としては史上最高齢となったカーター氏は、一連の短期間の入院を経て、2023年に自宅でホスピスケアを受ける選択をした。そこでロザリン夫人と共に過ごしたが、77年間連れ添った同夫人は同年11月に96歳で亡くなった。

カーター氏は今年の米大統領選で民主党候補のハリス副大統領に投票するという、人生最後の望みを果たした。

家業のピーナツ栽培・種子供給業からジョージア州知事に転身したカーター氏は、1976年大統領選に民主党候補として出馬。74年にニクソン第37代大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件で失われた信頼の回復に向けて、誠実さをアピール。現職のフォード大統領に勝利し、第39代大統領に就任した。

イスラエルとエジプトが調印した平和条約「キャンプ・デービッド合意」はカーター氏の代表的な業績で、両国の平和的共存につながったが、イスラエルとパレスチナの紛争を解決するというもう一つの目標は達成できなかった。

カーター政権に大きな影を落としたのは、イランでパーレビ国王を追放しイスラム共和国が樹立された1979年のイラン・ イスラム革命だった。革命指導者の故ホメイニ師が初代最高指導者に就き、同年11月には首都テヘランで革命派の学生が米大使館を占拠し、米国人60人余りが人質となった。80年4月には人質救出のため大使館への軍事攻撃を承認したが、作戦は失敗した。

国内外で危機に見舞われたカーター氏は、再選を目指した80年の大統領選で共和党のロナルド・レーガン候補に大差で敗退。444日間に及んだ大使館占拠事件の人質はレーガン大統領が就任した81年1月20日に解放された。

ボルカー氏起用

一方、カーター氏は在任中に国内の経済問題に悩まされた。就任した77年1月当時5.2%だったインフレ率は79年末までに13.3%に加速。米金融当局のインフレ抑制措置に伴い、住宅ローン金利はほぼ15%に達した。また、エネルギー不足を受けて原油価格が2倍余りに高騰した。

インフレ退治のためにカーター氏が連邦準備制度理事会(FRB)議長に起用した故ポール・ボルカー氏は積極的な金融引き締めを進め、金利は一時20%に到達。こうした政策は最終的に物価抑制につながったものの、カーター氏がレーガン氏に大敗する要因にもなった。

カーター氏はホワイトハウスを去った後も、世界に大きな足跡を残した。同氏は「元大統領の定義を塗り替えた」と、プリンストン大学の歴史学の教授でカーター氏の伝記を執筆したジュリアン・ゼリザー氏が指摘した。

大統領退任後は40年余りにわたり、ロザリン夫人と設立したカーター・センターを通じて世界各地の戦争や疾病、人権抑圧と闘う活動に従事した。

カーター氏の政権や生涯に関する動画

原題:Jimmy Carter, Ex-President Who Won Nobel Prize, Dies at 100 (2)、Biden Says Carter to Receive a State Funeral in Washington (2)(抜粋)

(1月9日を服喪の日に指定するとのバイデン氏の発表を追加して更新します)

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