(ブルームバーグ):米保険大手ユナイテッドヘルス・グループ幹部のブライアン・トンプソン氏が殺害されたのが12月4日。その1週間後にはもう、殺人などで起訴された被告の運命を米国人は賭けることができるようになった。金融規制当局など一部ではこれが問題視されているようだ。
ニューヨークに本社を置く賭けサイト運営会社カルシが、賭けの対象にしないものはほとんどない。リテールトレーダーらは幅広い事象に資金を投じることができる。カルシは今月11日に、トンプソン氏殺害に関する賭けをサイトに掲載。ルイジ・マンジョーネ被告の身柄がペンシルベニア州からニューヨーク州に引き渡されるのかどうか、単独犯なのかどうか、有罪判決を受けるのかどうか、あるいは自ら有罪を認めるのかどうかなどだ。
これらの取引は2日後に突然停止された。ブルームバーグニュースが確認したメッセージによれば、カルシは「規制当局からの通知を受けて」判断したと顧客に説明した。
商品先物取引委員会(CFTC)とカルシはいずれもコメントを控えた。カルシの監督機関であるCFTCは、公益に反すると判断されるような暗殺などの犯罪やテロ、戦争に関連した先物取引を禁じている。
殺人などに関連した賭けは、急成長するイベント取引ビジネスが規制当局に突きつける課題を浮き彫りにしている。自由市場に悪趣味が衝突したときに生じる状況に、新たなアングルを提供するものだ。ホットな話題は業者にとってうまみが大きく、そうした賭けはCFTCの承認を得なくても手続きの翌日には消費者に提供することが可能だ。こうしたプラットフォームが提供する先物取引は、実際のリスクヘッジや正当な経済的目的から大きく逸脱していると批判されている。
「まぎれもないギャンブルだ」とワシントンの金融政策シンクタンク、ベター・マーケッツでデリバティブ政策を担当するディレクター、キャントレル・デュマ氏は話す。「特定の人物が誰かを暗殺したのかどうかを、人々が賭ける。そして彼が有罪を認めるかどうかを賭けるまで、われわれの感覚はまひしている」と述べた。
マンジョーネ被告を巡る賭けはまだ、暗号資産(仮想通貨)限定のポリマーケットのような規制対象外のプラットフォームで取引されている。ポリマーケットは米当局との和解に基づき、2022年に米国のユーザーを排除したとしている。
CFTCは今年、カルシでの選挙に関する賭けを阻止しようと試みたが、法的係争で後退を余儀なくされた。連邦高裁は取引差し止めを解除し、選挙関連の取引を規制対象の取引所で扱うことを容認した。CFTCにこうした取引を恒久的に禁じる権限があるかどうかは、今後裁判所が審理する。
法律事務所カッテン・ムチン・ローゼンマンで上級法律顧問とデリバティブ市場のスペシャリストを務めた経歴を持つゲーリー・デワール氏は、今の状況は「政治イベント取引を巡る議論の第2ラウンド」に道を開くものだと指摘する。規制当局および企業は連邦法もしくは州法において、賭けやそうした活動の何をもって違法と判断するかが、法的議論の中心になるという。
取引所はCFTCに自己認証の文書を提出し、1営業日の審査期間を与えるだけで、その賭けをユーザーに提供することが可能だ。時間的な制約により、CFTCは自己認証済みの賭けを未然に阻止することができないが、審査期間中は一時停止とすることは可能なため、その取引はその間、宙に浮いた状態になる。
デュマ氏は「証券取引委員会(SEC)が設けている10日間の審査期間のようなものは存在しない」と指摘。「カルシは自分で認証しさえすれば、翌日には取引が始まる」と述べた。
こうした自己認証済みの賭け取引は、今後数年かけて急増する可能性が高い。ロビンフッド・マーケッツやインタラクティブ・ブローカーズ・グループ傘下のフォアキャストEXなど、CFTCが規制する企業は、選挙をテーマにした賭け取引を今年ローンチした。さらに多くのイベント取引所が新たに運営認可を申請している。
犯罪を賭けの対象にしたのはこれが初めてではない。ほぼ30年前、英国のブックメーカーはO.J.シンプソン氏の殺人疑惑を巡る裁判を賭けの対象にしたところ、大きな関心が寄せられた。同業他社はこれが許されるかどうかにかかわらず、追随を拒否した。
トランプ次期政権下のCFTCはこの種の取引所に対して、バイデン政権下よりも寛容になる可能性が高い。CFTC委員長候補として有力視されているブライアン・クインテンズ元委員は、かつてカルシの取締役だった。同氏が現在政策トップを務めるa16zクリプトは、影響力の強いベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツの一部を成す。
CFTCは選挙関連の賭け取引を阻止しようと、カルシおよび無認可取引所のプレディクトイットとの間で2年前から法的係争を続けている。この取り組みは今年まだ最終的な決着に至らず、対応は次期CFTC委員長の手に委ねられる。
原題:Bets Tied to CEO Murder Case Test Limits on Event Contracts (2)(抜粋)
(専門家のコメントを加えて更新します。更新前の記事では1段落目のトンプソン氏の肩書を訂正済みです)
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