ロバート・エガース監督の新作映画「ノスフェラトゥ(原題)」が25日に米国で公開された。これまでにも影に潜む吸血鬼を題材とした作品が製作され、ドラキュラやオルロック伯爵など幾つかの呼び名があるが、どのような名で呼ばれようとも今回の映画に登場する吸血鬼から逃れるのは難しそうだ。

この新作映画は、ドイツ表現主義映画を代表するF・W・ムルナウ監督によるサイレント映画の傑作「吸血鬼ノスフェラトゥ恐怖の交響曲」(1922年公開)を基に製作された。原作は1897年に出版されたブラム・ストーカーの小説「吸血鬼ドラキュラ」だが、権利の関係でムルナウ監督は登場人物の名前を変更した。

1931年にはトッド・ブラウニング監督の映画「魔人ドラキュラ」がハリウッドで製作されたほか、その後フランシス・フォード・コッポラ監督やベルナー・ヘルツォーク監督などの手による吸血鬼作品も公開された。

エガース監督の「ノスフェラトゥ」には、他の吸血鬼映画にはない何かがあるのだろうか。

この映画は本当に信じられないほど怖い。ストーカーの小説を原作とした他の作品は、不気味でロマンチック、時には笑えるものもあるが、エガース監督の映画は、不快で原始的な恐怖を描いている。問題は、クリスマスシーズンに公開される同作品が米フォーカス・フィーチャーズの投資に見合う成果を上げることができるかどうかだ。

この作品は、1838年のドイツが舞台で、リリー・ローズ・デップ演じるエレン・ハッターとニコラス・ホルト演じるトーマスの新婚夫婦の物語。事務弁護士のトーマスは、市内の不動産を購入したいという老貴族オルロック伯爵(ビル・スカルスガルド)が住むトランシルバニアの屋敷に赴く。これはよく知られたストーリーだが、エガース監督は重要な変更を加えている。

オルロックがエレンに執着するのは、彼女が亡き妻を思い出させるからでも、彼女の姿を見て魅力的だと感じたからでもない。両者の間には人知を超えたつながりがあるのだ。実際、思春期に孤独を感じていたエレンは、闇の中からオルロックを呼び出した人物だ。彼女は改心したものの、闇は彼女を取り戻そうとしている。オルロックは地獄の力を解き放ち、何千匹ものネズミや黒い液体を流す目など、悪夢のような光景が展開される。

多くの映画製作会社がこの不死の存在を愛してやまないものの、吸血鬼が登場する映画が必ずしも興行収入面での成功を得られるとは限らない。昨年だけでもドラキュラを題材にした映画が2本公開されたが、いずれも失敗に終わったとみなされている。

エガース監督は、他の吸血鬼映画には欠けている本質的な恐怖を表現している。この種の恐怖は映画全体を通して描かれており、最も不可解な瞬間に訪れるため、威力が失われることはない。この映画はオルロックの邪悪さがエレンの内に潜んでいる状態から始まる。これは、観客の心の中にも邪悪さが潜んでいることを意味する。数多くの映画化により「ノスフェラトゥ」の物語が失った力を幾分か取り戻せるだろう。この映画では、観客はドラキュラの支配下に置かれ、彼のゴツゴツした指が喉元に回されているような感覚に陥るだろう。

原題:The New Nosferatu Movie Might Break the Dracula Box Office Curse(抜粋)

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