卵子凍結(未受精卵凍結)とは、女性の卵巣から採取した卵子を将来の妊娠に備えて凍結保存することをいう。これには、妊孕性(生物学的な妊娠能力)の低下をもたらす原因疾患を抱える者などが将来の妊娠に備えて行う医学的卵子凍結と、明らかに顕著な疾患等が認められない健康な者が将来の妊娠に備えて行う社会的卵子凍結の2パターンが存在している。
社会的卵子凍結、いわゆるノンメディカルな卵子凍結は、女性の高学歴化やキャリア進出などを背景に、女性芸能人の発言力も加わり、有名になった言葉である。日本では、2013年に日本生殖医学会によって卵子凍結に関する社会的適用についてガイドラインが整備されたものの認知度はあまり高くなかったが、2022年の不妊治療の保険適用開始に伴う医学的卵子凍結の認知度の高まりとともに、徐々に認識されていった。
特に、2023年の9月から東京都が、将来の妊娠に備えて卵子凍結を希望する18歳から39歳の都民に対し、最大30万円の助成金の支給を決定したことで、メディアでも取り上げられるようになった結果、社会的卵子凍結の認知度が格段に上昇した。
医学的な卵子凍結に関する実態は、日本産科婦人科学会などによりARTデータの一環として公表されているが、社会学的卵子凍結に関する全国的な統計データは日本では取りまとめられていないのが現状である。本稿では、東京都が取りまとめた貴重な卵子凍結の調査結果について概説する。
卵子凍結の実態
1|卵子凍結を取り扱う医療機関数と人数
東京都が実施した卵子凍結に関する調査概要は、2023年5月末時点における東京都内の生殖補助医療機関104か所を対象に、生殖補助医療に係る状況を取りまとめたものであり、87か所(回答率:83.6%)より回答があった。卵子凍結の実施状況について、医学的卵子凍結を行う医療機関は16か所(18.4%)、未実施は71か所(81.6%)、社会的卵子凍結を行う医療機関は36か所(41.4%)、未実施は51か所(58.6%)であった。
また、回答のあった生殖補助医療機関87か所のうち、医学的・社会的いずれかの卵子凍結を実施していると回答した医療機関52か所を対象に、これまでに卵子凍結を実施した人数(合計)を質問したところ、医学的卵子凍結は計183人、社会的卵子凍結は計4,567人にのぼることが明らかとなった。