グローバル関税及び対中関税
・対中関税は半年以内の実現を想定
人事における対中強硬派の集結を踏まえると、トランプ次期大統領は就任後すぐにも対中関税の 60%引き上げを目指すと考えられる。対中関税は 2018 年以降と同様に 1974 年通商法 301 条に基づき講じられると当社経済分析チームは考える。換言すれば、新たな立法措置を必要とせず、ホワイトハウスや財務省、商務省、USTR といった行政府が為しうる。もちろん、関税賦課に際しての交渉やパブリックコメントなどの募集は講じられるため、一定の準備期間は必要だが、半年以内の実現を当社経済分析チームはイメージしている。
・グローバル関税の実現には立法が必要の模様
対して、グローバル関税は立法措置を伴うと考えられる。そもそも、当社経済分析チームは報復なども勘案した場合に米国側で生じる多大なコストの観点からグローバル関税が実現する可能性は低いと考えるが、グローバル関税賦課に際しては相当の立法、行政の手続きが求められるだろう。既述の通り、グローバル関税は歳入関連として財政調整措置の範疇に含まれる見込みだ。しかし、フィリバスターを回避するためには立法措置を講じることができるタイミングに制限が生じる。少なくとも 2025 年の早いタイミングでのグローバル関税の実現は困難と考えられる。
移民政策
・1丁目1番地だが、タイムホライズンを見通し難い
移民政策は、トランプ減税の継続と並んで、トランプ次期大統領にとって“1 丁目 1 番地”だ。移民や国境関連に対する人員割当の強化が講じられている点を踏まえると、就任してすぐに対応が講じられる可能性が高いだろう。壁建設の強化は、予算手当の問題がクリアできれば可能な限り早い実現スケジュールが模索されよう。トランプ次期大統領の発言などに基づくと、不法移民などの強制送還に向けて、「非常事態宣言」の発動と軍の利用が検討されている模様だ。しかし、人権侵害や憲法違反、法律違反などのかたちで司法を利用した抑制が、講じられ得る。当該行政府の決定が、司法の支持を得られるのか否か、また予算立法などの措置を含め、強制送還の費用を如何に捻出するかはかなり不透明である。移民政策が如何なるタイミングで発動され、かつどの程度の実効性を有するかは正直なところ見通し難い。タイムラインを最も把握し難い政策に思われる。
エネルギー環境政策の転換
・すぐに提示も、効果には時間
エネルギー環境政策の転換は大統領に就任してすぐに、トランプ次期大統領から提示されるだろう。しかし、開発規制の緩和などを受けて、民間事業者が行動を開始し、実際の原油や天然ガスの生産増加などに繋がるまでには時間を要する。タイトオイルなどでもすぐに生産が増加する訳ではない。
コスト削減
・事前準備が重要
コスト削減に向けたプロセスは準備期間次第だろう。来年 1 月の次期トランプ政権発足に向けて、無駄の洗い出しが進めば、一定のコスト削減が予算プロセスと切り離して講じられるかも知れない。しかし、本格的に実現するのは 2026 年度予算以降と考えられる。
情報提供、記事執筆:SMBC日興証券 金融経済調査部 チーフマーケットエコノミスト 丸山 義正、シニアマーケットエコノミスト 山崎 祐司、ジュニアアナリスト 木内 拓夢
2024年11月22日発行レポートより転載