次期トランプ政権の人事は全体として速いスピードで進展している。上院における承認を得られるかという重要なハードルが残るが、トランプ次期大統領に対する忠誠心が高い人物が、選挙における貢献も勘案した上で選出されている模様だ。前回の大統領任期と異なり、“ワンボイス”にて次期トランプ政権は運営され、トランプ次期大統領が掲げた政策の実現に邁進していくと考えられる。トランプ次期大統領の政策運営における、想定されるタイムラインに関して論じたい。
トランプ減税及びその他の減税など
・財政調整措置に拠る2025年末迄の成立を目指す
トランプ減税は 2025 年末で期限が切れる。延長及び恒久化に向けた議論は就任初期から始まると考えられる。政策としては最優先だが、タイムラインにおける優先順位は高くないだろう。最終的に 2025 年末までに延長及び恒久化の法律が成立すれば足りる。共和党は 100 議席中 53 議席を占めて次期上院を支配するが、議事進行妨害(フィリバスター、Filibuster)を回避するために必要な 60 議席に遠く及ばない。そのため、予算決議(budget resolution)を経た後に、その予算決議内の財政調整措置(リコンシリエーション、Reconciliation)を用いてフィリバスターを回避、過半数の賛成により、トランプ減税(継続)法案の成立を目指すと考えられる。
・恒久化は困難か
減税は歳入に関する内容のため、財政調整措置の対象を限定するバード・ルール(The Byrd rule2)に抵触しないことに疑念はないだろう。しかし、財政調整措置では、追加歳出と減税を恒久化する場合には 10 年間で相殺されなければならないなど期限の制約が存在する。そのため、現在講じられているトランプ減税と同様に恒久的な措置ではなく、時限的な延長となる可能性が高いと考えられる。
・パッケージ化されて成立を目指す
また 1 つの予算決議に対して、歳入、歳出、債務限度額のそれぞれに関して 1 つの財政調整措置法案しか原則として認められないという限界が存在する。現行のトランプ減税の延長に加え、残業代の非課税化、社会保障給付の非課税化、チップ収入の非課税化、国内製造業の法人税率引き下げ、個人及び中小企業向け税制優遇措置、初回住宅購入者向けの税額控除などをトランプ次期大統領は掲げる。社会保障給付関連などがバード・ルールに抵触する可能性はあるものの、減税政策などは、基本的に 1つのパッケージ法案に取りまとめられ、議会通過を目指すものと考えられる。
・分割はデメリットも
政策を個別に分解して成立を目指すという方法も存在するが、財政調整措置が予算決議に基づき 1 年度に 1 度と基本的に位置付けられているため、パッケージ法案が選択される可能性が高いと想定できる。後述するグローバル関税も、財政調整措置を用いて立法化されるかも知れない。例外として、コロナ禍に際してバイデン政権にて行われたケースなどが示すように、法案を分解した上で、2 年度の財政調整措置を 1 年度の間に用いる可能性が存在する。しかし、例えば、中間層向けに絞って減税規模を縮小すれば、民主党の賛成を得やすい一方で、共和党の造反を招きやすい。政策を分解することが、成立に向けた近道か否かの判断は相当に難しいだろう。分割するとしても、減税関連と、関税関連や移民関連などを切り分ける方向の可能性が高いのではないだろうか。ただ、移民関連は既述のバード・ルール
に拠って阻止され得る。