石破首相が掲げる「最低賃金引き上げの加速」

石破首相は、2020年代に最低賃金の全国平均を時給1500円に引き上げる目標も掲げている。すでに時事通信の5月の報道によれば、自民党の「新しい資本主義実行本部」による成長戦略の一部でも最低賃金を1500円に引き上げるタイミングをそれまでの30年代半ばから前倒しで達成することが促されており、これも岸田前政権を踏襲したものとなっている。そして、仮に20年代末となる29年度に1500円を達成すると仮定すれば、来年度からの5年間で年平均89円の引き上げが必要と計算される。

この引き上げ幅は、今年度に過去最高となった51円の引き上げ幅を大幅に上回ることになり、パートタイム労働者を中心に来年度以降の引き上げはかなりの雇用者の賃金に直接的な影響を与えることになるだろう。そして、仮に最低賃金の全国平均が前年から89円程度引き上げられた場合の名目賃金への影響を簡便的に試算すると+0.8%程度の押し上げとなり、マクロの名目賃金にも無視できない影響を与えることが示唆される。

なお、日本においてこれまで最低賃金の引き上げが雇用環境に悪影響を及ぼしたという観測はされてない。しかし、これまでにないペースで最低賃金を引き上げるとなれば、その影響を受ける労働者の割合も高まる可能性があろう。そして、帝国データバンクの調査によれば、すでに今年度上期に人手不足倒産が過去最多を更新している。こうしたことからすれば、石破氏の掲げる最低賃金引き上げの加速が雇用に与える影響も無視できない可能性があろう。

今後の議論でこうした最低賃金の引き上げ加速が、雇用や中小企業の経営に対して与える副作用が重視されることになれば、最低賃金が全国平均で1500円に到達する時期を後ろ倒しに修正するという選択肢もありうるだろう。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 首席エコノミスト 永濱利廣)