石破首相の「地方創生策」

こうした中、石破首相が総裁選後の記者会見で地方創生の一環として「国内の景気浮揚に向けて、海外で広がった日本企業の生産拠点を国内回帰させ、日本国内に雇用と所得の機会を作ることが重要」との考えを示したことは注目に値する。実際に所信表明演説でも、地方創生交付金を当初予算ベースで倍増を目指すとしており、政策集でも「高付加価値のモノとサービスを適正な価格でグローバルに売ることのできる経済を実現するための半導体など輸出企業を中心としたサプライチェーンを国内で整備し、中小企業を含めた高付加価値化・賃上げを実現するため、税制などで民間投資を刺激しつつ、国の投資も強化する」との主張が掲げられている。こうした点でも岸田氏が掲げてきた「新しい資本主義」が引き継がれ、経済正常化への期待を高める内容といえよう。

また、「少子高齢化や人口急減少にも対応する「新しい地方経済・生活環境創生本部」(仮称)を創設し、担当大臣を設置して、次の10年間に集中的な総合対策を検討・実施するとしている。そして、「ネット通信環境の整備とデジタル化によって「情報格差ゼロ」の地方を創出し、遠隔教育や医療、ビジネスなどの分野における地方の人材確保なども進める」としており、生産拠点の地方誘致策がまとめられることが期待される。

一方で、石破氏は日銀の金融政策運営に対してはタカ派な姿勢を取ってきたことには注意が必要だ。その後、10月2日の植田総裁との会見後に「個人的には現在追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」と発言したものの、翌日に日銀の金融政策に注文を付ける意図はなかった旨を説明している。こうしたことから、経済・物価が日銀の見通し通りに推移すれば、徐々に利上げで緩和度合いを縮小していくという現行の日銀の政策運営姿勢が踏襲されることになろう。そのため、日銀による拙速な利上げのリスクがあり、その実施時期等については細心の注意が必要になるだろう。

そうした意味では、石破氏の経済政策も初期段階ではいかに物価と賃金の好循環を早期に達成するため、24年度補正予算に政策を総動員し、経済正常化する前の金融財政引き締めを我慢できるかにかかってこよう。

その他には、防災政策の強化も注目だろう。というのも、石破首相は防災庁設置準備担当として赤沢大臣を任命しており、石破氏の政策集に基づけば「巨大自然災害の切迫した危険や近年のさらなる風水害の頻発化・激甚化に対処し、国民の生命、身体、財産を守るため、速やかに人員・予算を大幅に拡充し、令和8年度中に平時から不断に万全の備えを行う専任の大臣が率いる防災庁を創設し、防災省の設置に向けた検討につなげる」としている。

また、石破氏は原発の依存度を下げる旨の発言をしている。しかし、政策集では「AI時代の電力需要の激増も踏まえつつ、エネルギー自給率を抜本的に上げるため、安全を大前提とした原発の利活用、国内資源の探査・実用化、地熱など採算性のある再生可能エネルギーの最適なエネルギーミックスを実現し日本経済をエネルギー制約から守り抜く」となっている。よって、石破氏の経済政策でも、岸田前政権で進んできた原発政策の引継ぎ・強化が進展することが期待される。