トランプ前米大統領のホワイトハウス返り咲きに賭け、米長期債の保有を縮小し暗号資産(仮想通貨)ビットコインを買うなどの動きが数週間前から見られた。しかし、バイデン大統領が選挙戦撤退を決めた今、民主党勝利の確率が高まるのか、どれだけ投資ポジションの見直しが必要なのか投資家は判断を迫られている。

  バイデン大統領が再選を断念したことで1つ確実だとみられるのは、市場のボラティリティーを高める可能性が高いということだ。バイデン氏(81)は盟友からの圧力に直面していただけに、今回の発表は広く予想されていたとはいえ、選挙戦に不確定要素をもたらす。

  ディープウォーター・アセット・マネジメントの共同創業者でマネジングパートナーのジーン・マンスター氏は、「不確実性の増大を意味する。トランプ氏勝利を確信する向きは多かったが、市場は新たな不確実性を嫌うだろう」と述べた。

  バイデン氏が21日に再選を断念しハリス副大統領を支持すると表明したのに先立ち、市場はここ数週間に複数の政治的ショックに見舞われていた。

  まず、6月の大統領選討論会でバイデン氏が散々な結果となり、投資家の間では再選の可能性が急低下。その後、トランプ氏の暗殺未遂事件が発生し、市場では11月にトランプ氏が勝利するとの見方が強まった。

  共和党が主張する財政政策の緩和や関税引き上げ、規制緩和から恩恵を受けると見受けられる業界や投資戦略がこれまで総じて選好されてきたが、こうした「トランプトレード」は最新のニュースを投資家が消化していく中で、逆風に直面する可能性が高い。

投資家の反応

  22日の取引が始まると、伝統的に安全資産と見なされているスイス・フランが上昇。同様に、ボラティリティーからの避難先と位置づけられる米国債や円、金も買われている。ビットコインは小幅に上昇し、約1カ月ぶりの高値を付けた。

  米国債市場では、長期債先物が短期債先物よりも上昇。トランプ氏勝利を見据えたいわゆるイールドカーブのスティープ化トレードの小幅な反転を示した。

  ミシュラー・ファイナンシャルのマネジングディレクター、グレン・カペロ氏は「債券市場の主な思考プロセスは、この新たな不確実性が何をもたらすかだ。現実的な話になり始めたトランプトレードに人々は殺到していたが、私はかなり早過ぎる動きだと思っていた」とコメント。「スティープ化トレードは、おそらく少し巻き戻しを余儀なくされるだろう」と付け加えた。

  ドルは小幅安で、ブルームバーグのドル指数は0.1%下落。ただ、ドルの弱さはメキシコ・ペソの大幅な押し上げにはつながっていない。トランプトレードでは、メキシコなど米国の貿易パートナーにとって不利になる関税をトランプ氏が課すとの思惑から、ペソのショートが好まれている。

  

  このほかトランプトレードでは、米国債利回りの上昇、銀行株や医療株、エネルギー株、ビットコインの上昇を見込む取引が人気化している。

  ラボバンクのシニアマクロストラテジスト、シュテファン・クープマン氏は「バイデン氏の前例のない決定は、選挙戦に不確定要素を持ち込む。恐らく市場のボラティリティーは高まるだろう」と予想し、ハリス氏が支持率の差を詰めれば、市場の変動は激しくなるだろうと指摘。

  一方、「トランプ氏が支持率でリードを続け、同氏の勝利が不可避だと投資家が見なせば、規制緩和と減税、財政支出拡大を見込む『トランプトレード』が利回り曲線のスティープ化や、ドルとビットコインの上昇をもたらすだろう」とも述べた。

ウォール街、ボラティリティーに備え-民主が下院制する可能性も想定

  市場では今や、「ハリストレード」はどのようなものになるだろうかとの議論が始まりつつある。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のアナリスト、ネイサン・ディーン、アンドルー・シルバーマン氏はリポートで、ハリス氏勝利なら多くの分野で「政策の現状維持」となる公算が大きいが、低中所得者向けの減税や消費者関連の規制措置に注意が向けられる可能性もあると記した。

  オンライン予想サイトのプレディクトイットによれば、ハリス氏は民主党候補として最有力だが、トランプ氏は依然として大統領選に勝利する可能性が高いと受け止められている。

  XTBの調査ディレクター、キャスリーン・ブルックス氏は「先週の大幅安から米国株の反発をハリストレードがもたらすのか、断定は時期尚早だ」と述べ、「ハリス氏は石油業界に厳しく、反シェールと見なされている。過去24時間のハリス氏の人気上昇が、週初の米エネルギー株に影響するかもしれない」と続けた。

  ハリス氏が党の候補指名を獲得し世論調査でトランプ候補のリードに挑戦するほどの勢いをつけるかどうか、トレーダーは様子を見ている。

  現職大統領が2期目を目指さなかったのは1968年のジョンソン大統領(当時)以来で、市場がどう反応するのか参考となる過去のデータはほとんどない。 

  グローバルデータTSロンバードの世界政策調査担当マネジングディレクター、グレース・ファン氏は新たな民主党候補が登場すれば「市場が勝利の確率を見直すことに伴いトランプトレードがぐらつくだろう」と17日付リポートで指摘。ただハリス氏が最終候補になった場合、これらの賭けが「大きく動く可能性は低い」と論じた。

原題:Biden’s Exit Delivers Fresh Political Shock to Twitchy Markets、Biden Exit Puts Trump Trade in Doubt as Election Gets Re-Set (4)(抜粋)

--取材協力:Anya Andrianova、Bre Bradham、Elizabeth Stanton、Nazmul Ahasan、George Lei、Isabelle Lee、Matthew Burgess、Carter Johnson、Liz Capo McCormick、Michael Mackenzie、Tasos Vossos、Elena Popina、Ryan Vlastelica.

(投資家の反応を更新、付け足します)

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